激撮!少年少女の長い旅。
□撮影準備
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Side/C
春うらら、暖かな陽が降り注ぐようになったころ。
シンオウ地方、コトブキシティ。
来週から放送、撮影予定の『激撮!少年少女の長い旅』の打ち合わせということで、
パープルはテレビコトブキ二階、打ち合わせ室に来ていた。
が。
「嘘だろオイ……」
見渡す限り、マネキンに服が着せられているこのフロア、一体何の騒ぎだろう。
ファッションショーの企画でもあるのだろうか。
「あ、パープルじゃん!父さんに会いたくて来てくれたのか?
4歳のころを思い出すな〜っ、オリーブと一緒に来てくれたっけ?」
「む、昔のことはいいだろ!?
撮影の打ち合わせって俺は父さんの口から聞いたんだけど!?」
あの頃は可愛かったよなー、と感傷に浸る父さんに怒鳴ると、軽く笑ってあしらわれた。
「撮影?知ってるよ。俺がお前に教えたんだから、知らないわけないだろ?」
何かイラつく!?
でも親だし、上から目線でも仕方ないよなうん……。
ここまで育てていただいたことをないがしろになどできないので、文句は抑える。
「で、父さん。この服……マネキンに囲まれながら打ち合わせするの?」
「当たり!でも、このマネキンというか、服。これも『激撮!』の道具だ」
「何故にっ!?」
服なんてどこで使うんだ、と食って掛かると父さんはキメ顔で言い切った。
「番組というものは、スポンサーとの契約で成り立っている。
相手様がいるのにも関わらず、他社様と仲良くするのは失礼だろう?
だから、撮影で使用する小道具等は、スポンサーの商品を採用するんだ」
「へー……」
言ってることが意外と真面目だ!?
キメ顔なのも仕方ないような気がして突っ込めない!!
感心していると急に、にへらっと笑って父さんはキメ顔を崩した。
「さ、パープル、某有名ブランドの服が選び放題だぜ!何を着る?」
「考えてることが悪どい!?」
自分の父親ながら、恥ずかしい。
「冗談は置いといて。出演者はスポンサーの服の着用が義務化!
もちろん靴やカバンもね!」
「マジで……?」
にこやかに『マジでー』と言われても、何も言い返せなかった。
なんてこった。
「服って言っても、たくさんあるからな!好きなの選べ!」
そんなこと、と思いつつも俺は、あまり目立たないパーカー付きのトレーナーを手に取った。
「お、それにするのか?」
「俺は寒がりだから」
かははっ、と父さんは陽気に笑った。
撮影準備!
(旅はまだ、始まらない!)