激撮!少年少女の長い旅。

□転機の日
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「ひいっこ!」

「!?」

顔面にぶつかりそうだったビッパ……の大きく開けられた口が急に視界の端に追いやられた。


「ヒコザル!?おま、何して」

ヒコザルがタックルをビッパに食らわせたのだ。

いや、技名的には“たいあたり”か。

これは……もしかしたら、いや多分そうなんだけど。

照れたように顔を赤らめながらも、恥ずかしいのか俺の顔を見ないヒコザルを見て確証を持つ。


「俺を守ってくれたのか……!」

ツンデレなのかヒコザル!?

いや、恥ずかしがりだからハズデレ……?

新ジャンル開拓かよっ、でも嬉しいなこの野郎!

滅茶苦茶なことを思いながらも感激する俺。

ヒコザルが弁解をしないのがまた嬉しすぎる。

何なのこの子!微笑ましすぎる!

テンションが上がりまくる俺。ヒコザルは背を向けたままだ。

でもいいんだ……!

ヒコザルが俺を守ってくれたという事実がある限り、
ヒコザルが俺のことを嫌ってるわけじゃないと思えるのだから!

と、下半身に鋭い痛みが走った。


「うっ、つ……!?」

今までのどうでもいい考えが頭の中からすべて消え出す。

兄と遊んだ幼い日のことや、トレーナーズスクールに通い始めたことが
急に鮮明に思い出されてきた。

どう考えても走馬灯だった。

ビッパがかみついてる!?
これって人間にしちゃダメだよね!?

とりあえず追い払おうと躍起になるあまり、俺はビッパを叩き落とした。


ガリッ

叩き落としたはず瞬間、嫌なガリリという音が耳についた。

地面にビッパが落ちてもなお、また2度、3度……と音が響く。

何だ、この『金属器に鋭いものを当てた時に生じるような音』に似た音は。

ビッパを叩き落とした瞬間から鳴り響くこの音、一体何なんだ。


「え、ビッパ!?」

がじがじ、と。

眉をひそめて非常に不味そうにモンスターボールをかじっていた。

嘘だよね?

それって、ヒコザルのモンスターボール?


がりいいいっ!

妙に、どこかいっそのこと清々しく、破壊音をビッパが奏でた。

▽ボール は はかい された!

うわあ……何してくれてんのこのビッパ……。

ただでさえ面倒な状況なのに、どうしてこうも事柄をこじらせたがるんだ。


「ヒコザル、“ひのこ”」

「びいいいいいいっ!!」

いつもより冷酷そうな自分の声が耳に届く。

ビッパの悲痛な声が、草原に響いた。
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