激撮!少年少女の長い旅。
□帰郷を待ちわびて
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「初めまして、こんばんは……私はテレビコトブキの者で、ルースといいます。
気軽に、ルースとお呼びください」
「…………テレビ?」
ルース、と名乗った目の前の男に警戒が解けない。
こちらとしては無礼だけれど名乗らずに、保身のために
相手の情報を聞き出すことにする。
「はい。今日会ったので面識があるとは思いますが、オレンジ=ローク=ガレロスちゃんの出演している
追撃系撮影番組で、『激撮!少年少女の長い旅。』という春から始まった新番組なんですが……
ご存じありませんか?」
「…………聞いたことは」
そういえばオレンジ自身がそんなようなことを言っていた。
けれど、ジム戦だけじゃなかったっけ?
「失礼ですが、お名前を教えていただいてもいいでしょうか?」
ルースが、表面だけは穏やかに尋ねる。
個人情報の流出、という単語が脳裏をかすめた。
「ネイビー。ネイビー=ツリーク」
「ネイビーくんですか。
唐突ですが、ネイビーくんはどこかの芸能事務所に入っていたりしますか?」
「いえ、一般庶民です」
淡々と質問に答えると、ルースは気をよくしたのか真意は不明だが、口角をあげた。
ゾッと悪寒が背筋を走る。
こいつ、プルートイドよりもひょっとするとヤバい人かもしれない。
「でしたら、撮影の際に映ったあなたの姿を、
全国に放送してもいいか了承をもらえませんか?」
「…………別に、構いませんけど」
尾行して撮影をしているんだろうけど、はっきり言って軽蔑する。
いくら任意を得た(だろう)としても、隠し撮りは危ないだろう。
何たってオレンジは、頼りない弱い少女なのだから。
「明日も、オレンジちゃんに同行するおつもりでしょうか?」
「はい」
答えながら、趣味が悪いなあと頭の片隅で思う。
隠し撮りをしていたとすれば、明日もオレンジと行動することを知っているならば、
僕の名前も何もかも、知ってるはずだから。
改めて言わせるのは―――なんというか。
フェアにみせかけた非合理な方法のように感じる。
嫌悪感がぬぐえない。
「でしたら、番組出演任意書に署名をいただけませんか?」
「は?」
「本当でしたら保護者の方にやっていただきたいのですが……何かご不明な点でもございますか?」
「僕も署名、しなきゃいけないということなんですね」
ルースは人当たりのよさそうな顔を、猫のようにくしゃりと崩した。
「あなたがオレンジちゃんと行動を共にしないのならば、構いませんよ?」
「…………ふうん」
僕は書類を受け取った。