小説

□零ベクトル
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あ、そっか。

唐突に脈絡なく分かってしまった。

どうしようもなくグチャグチャで整理しがたい頭の中を何とかしたくて、机に頭を打ち付けた。

別に私は、バカなわけじゃないと思う。

天才だなんていうのはあり得ないとして、だけれどそこそこは学力も一般常識もあるつもりだ。

そんな私だって、いわゆる青い春してる学生諸君に寸分たがわず青い春していて。

一丁前に無様にも深く考え込んでいたのだ。

自分は何を望んでいるのだろうか、と。

アニメなどで見られるほどに深刻ではないようなレベルの中二病を治しかけた頃だ。

そんなころに、よくあるライトノベルの中の、よくある告白シーンを読んで、分かってしまった。

ひねくれたヒロインに告白する主人公、こんな流れの話を読んでいたのは絶対に中二病だったからなのだ。

支離滅裂な、面白味の一切ない素人以下のその話の中に心打たれたのは。


「私は、誰かに愛されたいんだ」


私にだけベクトルを向けてくれる誰かに出会いたいんだ。

親よりも、無条件に私を愛してほしい。

私という一個人を認めて、必要としてほしい。

だって、誰にも求められず誰にも必要とされたことなんて、ないのだから。


「嫌だ、愛されたいだなんて何年前のアイドルの歌だよ。
 くそ食らえだ、存在を認められたいだなんて」


存在を認められたいだなんて、自分が自分の存在を認められないくせに。

最低だなあ、そういう風なことを誰かに吐き捨てられて
「ありがとう」と笑顔で返せるほどに私の神経が図太ければいいのに。

「あなたも大概だよね」なんて皮肉を相手を嘲笑しながら返せたらいいのに。

できもしないけれど、「私」を認めてくれるまだ見ぬ「誰か」に焦がれている
滑稽な事実が思った以上にショックだった。

望みながら失望するだなんて、日本語の使い方が間違っている。

だけどそんなこと知らないや、本当に嫌なんだから。

自分の代わりに肯定して、だなんてね。

そんなことしてくれるひとが、この世界にいるはずないのに。

世界がそんなに素敵で、綺麗じゃないと、私にも優しいと、思ったことなんてないのにね。

私にベクトルが向くことなんてないんだろうね、そりゃ当たり前だけど。

私は私すら認めずに、誰からも認められずに、大きさも向きも、矢印は向けられやしない。

目も向けられない散々な様ね。

精々誰にも知られないように、この気づいちゃった願い事が死滅することを望もう。


「散り散りになって吹き飛ばされて、そしたら私は、」


やっと分かったはずの答えも無くした時、私は何を望んでいるのだろう。

誰からもベクトルを向けられないままに、私は。

死にたい、そんな本心がやっぱり今日もぼんやりと心に浮かんで、しぼんだ。


 零ベク

 (誰のベクトルも私に向かないで、私は誰の記憶にも残らず死んでいく。)























一万Hit記念に募集したリクエストを書かせていただきました!
創作で「零ベクトル」というタイトルで書いてほしい、とのことでしたが……
思ってた以上に短くてしかも暗い、意味不明にネガティブな雰囲気になってしまい申し訳ありませんでした!(土下座)

こんな話は頼んだ覚えねえよ、って場合は拍手等から教えてくだされば書き直させていただきますので!

ぜひいつでも言ってください、言ってやってください!

照子様、本当にありがとうございました!

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