小説

□涙を隠してしまえたら
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他人の心理を盗みとれる『目』を持つセトは、いつだったか自分のことを面妖だと言っていた。

怖いんだとうわ言のように繰り返すセトの黒色の髪を撫でると、彼は上目遣いに私を驚いたように見た。
その目にはまだたくさんの宝石みたいな涙がぶら下がっている。
そっと指先に触れさせると、乗った雫はふるふる震えて地面に落下してしまう。

もったいない、と何でか思った。


「マリーは、僕のこときらいにならないの?キモチワルイ、って思わないの?」


嫌われることに恐怖するセトに、私の方こそびっくりしてしまう。
他人の心のウラオモテに恐怖してるんじゃないの?
これは私の、都合のいい夢だからなの?


「キライになんて、なるわけないよ。私の方がよっぽど化け物だし、キモチワルイ。
 ね?セトはその『目』で私が本当に思って、そう言ってるって、わかるでしょう?」


「……でも、不安なんだ。みんな僕のこと、大嫌いって死んじゃえよって思ってたから」


ぐずぐず目を擦る小さな彼を、きゅっと抱き締めた。
現実には絶対できない、彼を包み込む行為。
だって彼は、もうこんなに小さくはないのだから。


「私はセトが大好きだよ。それにキドもカノも、セトのことが大好き。
 私たちは、セトの言うみんなに入ってないでしょ?」


黙り込んでしまった彼の背中を、トントン、リズミカルにゆっくり叩く。
私が寂しいときにいつもセトが、私にしてくれるように、優しく、優しく。


「今はまだ、セトのことをきらいな人もいるかもしれない。でもセトのことを大好きな人だって、ちゃんといるんだよ」


ちゃんとここに、いるんだよ。
顔を覗き込むと、まだ目にうっすら涙の膜を張らせていたけれど、ふんわりとセトは笑った。

いつもの、キラキラした笑顔。


「ありがとう」


純粋な好意、回された腕。
抱きつかれて抱き返されたのが堪らなく嬉しくって、私もぎゅっと抱きついた。
顔を見合わせて笑う、幸せな時間が流れる。

ああ、そろそろ目を醒まさなきゃいけないなあ……。







気持ちのいいまどろみの夢の世界を振り切って目を開けると、寝過ごしちゃったみたい。
時計の針は一番上に来てしまっていて、セトの姿も見当たらない。
もうバイトに行っちゃったみたい、さびしい。

パジャマから普段着に着替えて部屋から出ると、キドもカノもいなかった。
散歩かな、部屋にいるのかな。
どっちか分からないけれど。

机の上には置き手紙と、真っ白な丸いお皿に2つの小さめのおにぎり。

『買い物に行ってくる。朝ご飯は鮭とおかかのおにぎりだ。ちゃんと食べろよ』

キドらしい可愛い字で書かれたそれを見て、席についてきちんと「いただきます」をしてから食べ始める。

誰もいないアジトには私がはぐはぐ、おにぎりを食べる音と時計が時を刻む音しかしなくって。
何となく悲しくなった。
黄色い電灯が、いつもより暗く見える。


「おっじゃまっしまーすっ!団長さーん、カノさん、マリーちゃん、こんにちはーっ!」


そんな暗い、私の気分を払拭するかのように明るい声が、唐突にドアノブを回しドアを開きながらした。
楽しそうな様子に、私も自然と口角が上がる。


「モモちゃん!」


「わ、マリーちゃん!こんにちは。あれ、団長さんとカノさんは?」


「買い物に行ったみたい。今はいないよ」


そっか、少し残念そうにしたけれどすぐにいつもの調子を取り戻すモモちゃん。
私に台所からコップにお茶をいれて持ってきてくれた。ありがとう。

もぐもぐ、私が食べ終わるまで待ってくれるみたいで、
適当にカノが読み散らかした雑誌を片付けてくれるモモちゃん。
いつもはキドが片付けているから珍しい。

カノはキドを『欺い』ちゃったのかな。
よし、キドに言いつけちゃおう。


「そうだ、モモちゃん。あのね、」


思い出したのは夢のこと。
突飛な私の言葉に、モモちゃんはきっと驚いたことだろう。


「昔はセト、泣き虫で臆病だったんだ」


優しくて脆い彼のこと、モモちゃんにも大好きになって、ほしいから。

でもセトが泣きたくなった時にそばにいるのは、私だといいな。
その涙を、ぬぐってあげて、笑顔に変えたいから。




 涙を隠してしまえたら

















タイトルは「休憩」様にお借りしました。

カゲプロの公式アンソロジーをお友だちに貸していただいて、うああっ!ってなりました。その産物。

セトマリがもっと増えたらいいのに。
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