小説

□こわい夢を見る病
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マリーとヒビヤ



ヒビヤくんが風邪引いちゃったんだ。
そう言って、薬を買ってくるとアジトを飛び出してしまったモモちゃん。

今日はみんないなくって、造花作りをしていた私は休憩がてらお茶でもいれようと
台所に向かっていただけで、唐突にそんなことを言われたから。
噂のヒビヤくんはソファに寝ていて、おでこには熱冷まシートを貼っていた。

不機嫌そうに天井を睨み付け、それでも律儀に毛布はきっちり被ってた。


「……なにか、用?」


掠れた鼻声はどう考えたって風邪で、心配になる。
セトは全然風邪を引かないし、キドもカノもそうだから。

あ、キドはたまにゴホゴホいわせたり鼻をかんだりしているけれど、市販の風邪薬ですぐに治してしまってたっけ。
メカクシ団の中では、私が一番の風邪引きだったから、辛い気持ちが分かる気がした。

ううん、用ってほどじゃないけどと返しながら首を振ると、ヒビヤくんが首をひねって私の顔を見た。


「何か私に、できることってある?」


「…………だったら、水とか。何か飲みたい」


冷たいものがいいってことかな?
風邪引いた時は水分をとらせた方がいい、って聞いたことがある気がした。

本当はカノのだったけど緊急事態なんだ、といいわけをして
コップに冷蔵庫から取り出したスポーツドリンクをこぽこぽ注ぐ。

こぼさないように気を付けながら持っていって、はい、渡すと
ヒビヤくんは疲れの見える声でありがとうと言った。


「…………今度はなに。見られてると寝にくいんだけど」


赤い顔で私に文句を言うヒビヤくんに、いつもの覇気はない。
うん、じゃあ部屋にいるから、何かあったら呼んでね。

自分用に淹れたティーポットとカップを持って部屋に戻ろうとすると、ちょっと、と控えめに呼び止める声。


「なあに?ヒビヤくん」


「……僕が寝るまで、ここにいてくれない?」


一人だとヒヨリを思い出して、泣いてしまいそうになるから。
恥ずかしそうに続けられた言葉は、突っつけどんないつもとは全然違う。頼りない。


「いいよ」


何だか笑ってしまってそう言うと、私の表情に気づいたヒビヤくんは眉を寄せた。


「何で笑うわけ」


「だってヒビヤくん、」


私に兄弟はいないけど、何だかワガママな弟みたいなんだもん。
そう言えば、ヒビヤくんは顔を更に赤くさせて、僕はそんなんじゃないし!と大きな声を出す。

わ、びっくりした。


「そんなに元気なら、明日にはきっと、風邪も治るね」


「…………」


「ここにいるから、ちゃんと寝なきゃ。治らないままだと、モモちゃんが心配するよ?」


寝なきゃ風邪は治らないもんね。
不服そうなヒビヤくん、何か言いたそうだったけれどため息をひとつついて、目を閉じた。


私は音をたてないようにカップにハーブティーを注ぐ。
爽やかな香りが広がって、少しすると安心したような寝息をたてだすヒビヤくん。

がちゃり、ヒビヤくんを気遣うようにそっと扉を開いたらモモちゃんが、
ヒビヤくんの寝顔を見て私と同じことを言うまで後、数秒。




 こわい夢を見る病



















タイトルは「休憩」様からお借りしました。

カゲプロ公式アンソロジーを見ての産物パート2。
これは短い……すみません。

ヒビヤとヒヨリがあんまりいなかったのがちょっと残念だったので。
ヒビヤくんって弟みたいだなあと思った話でした。

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