小説

□きみと歩ける喜びを
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「父、さん……」


嫌な夢を見た。
覚醒しない頭で天井を睨む、今見てしまった夢を恨みながら。
恨んだって、仕方ないのだけれど。

さっさと忘れようと頭を二、三度振ってベットから出る。
ひんやりとした床が裸足の足に刺さるようだ、
慌てて仕舞ってしまったスリッパを引っ張り出す。

洗面台に行き蛇口を捻ると、じゃーと勢いよく流れ出す水が心のモヤモヤも流し出してくれそうな気がした。
手で水をためて、あまりの冷たさに手を引っ込めそうになる。
それでも仕方ないし、我慢してぱしゃん、顔を洗った。

冷たい、けれど、この方が清涼感があるように思えた。


「今日は新聞、休みだったのか」


ポストを覗いて、空っぽの中身にそう結論付けて朝食の案を練る。
冷蔵庫に卵があったから、スクランブルエッグでも作ろうか。

軽く台所に立ち朝食を完成させてからテーブルについた。
そこで初めて、卓上カレンダーを見て気がつく。

あ、今日は俺の誕生日じゃないか。


「まあ、だからといって何があるわけでもないけれど」


呟いた言葉とレタスをしゃくしゃく食べる、時計の針の音がやけに大きく聞こえた。
予定は特にない、何をしようか。

キョロキョロ無意味に辺りを見渡すと、勝手にボールからマニューラが出てきた。


「どうしたんだ?」


自分から出てくるなんて珍しく、頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めた。
しゃがみこんで視線を合わせれば、嬉しそうにニコニコしながら差し出される物。
これは?


「俺にくれるのか?」


こくこく、勢いよく首を縦に振る。
手渡してくれたのはオボンの実で、持たせた覚えもないのだけれど。
どこかから拾ってきたのだろうか?

もしかすると。
卓上カレンダーにまた、目がいった。


「俺への誕生日プレゼント……?」


キラキラ瞳を輝かせるマニューラは、今度はゆっくりうなずいた。しっかりと。
そんなことをされたのは、生まれて初めてだった。
胸にじわじわと、温かいものが広がっていく。

痛くないように、きゅっと小さな体躯を抱き締めた。


「ありがとな、マニューラ」


何をマニューラが言ったのかは分からない。
だけれどどこか満足そうに、マニューラは一声俺に返した。
お誕生日おめでとう、と言うかのように。

お前たちにも朝食を振る舞わないとな。
ポケモンフーズと果物を皿に盛り付けて、マニューラ以外のポケモンたちもボールから出してやる。
みんなそれぞれ、声をあげた。


「…………ありがとう」


その声がとても優しいものに聞こえて、自分に甘えるようなものだったから。
さっきのマニューラの行動から、そう聞こえただけなのかもしれないけれど。
そう言うと、食事もそっちのけで擦り寄ってくる手持ちが、とてもいとおしく思えた。

こんな誕生日が迎えられて、しあわせだ。
じんわり広がる喜びを噛み締めながら、俺はポケモン達に囲まれながら笑う。
まだぎこちないけれど、これから彼らとなら、もっと上手く笑えそうな気がした。

今日見た嫌だと思ったあの夢も、いつか幸せな思い出の一ページに、変わったらいいのに。



 きみと歩ける喜びを


















タイトルは「休憩」様からお借りしました。
こんな誕生日の祝い方もいいんじゃないかなあと思いまして。
しかし短くてすみません……。

赤いギャラドスがシルバーに擦り寄ってるのはちょっとシルバーが食べられそうな感じで怖い気もしますが。
手持ちに愛されてたらいいなと思います。

マニューラと一番仲良しなイメージがあります。
……ごめんねオーダイル。
午前はこんな感じでゆったり過ごして、午後からはブルー姉さんやゴールド、クリスに
誕生日をパーティー開かれていたらいいなあ。

本当にシルバー、大好きです!


お誕生日おめでとう、シルバー!

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