小説

□君を知り得る16時
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(キョウルリ)



落とし物を見つけたら、落とした人が困っているかもしれないからポケモンセンターに届けましょう。

小さい頃に母さんに言われた言葉の通り、行動しただけで僕からしてみたらごくごく自然なものだったから。
だから僕らが出会えたのは、ルリちゃんのお陰なんだよ。


「わ!」


突然鳴り出した、落とし物のライブキャスター。
どうしようどうしよう。
勝手に出るわけにもいかずまだ僕は経験が浅くて、あたふたしている間にピッと通話が開始されてしまう。

あちゃー、これってどうなるんだろう。
あ、ライブキャスター掛けてきた子に落とし主を聞いて直接渡せばいっか。
こういう時、旅をしていると時間や場所に特に囚われずに済むから楽だ。
そんなことを刹那的に思いながら画面を覗く。

がそこには、このライブキャスターの持ち主の知り合いではないのか番号が表示されるのみで、顔は映っていなかった。


『も……もしも、し』


恐る恐る、といった風のライブキャスターからの声は可愛らしい女の子の声のもの。
黄色のライブキャスターの縁取りではどんな人が持ち主なのか図りかねる。

それにしても黄色のライブキャスターは珍しい、確かピンクと青しか販売されていないんじゃなかったっけ。


「もしもし」


『わ!あ、あの、もしかしてこのライブキャスター、拾ってくださったんですか?』


「はい、ライモンシティの花壇の前に落ちてましたよ。すみません勝手にライブキャスターに出ちゃって……」


ホッとしたように跳ね上がるトーン。
どうやらこの女の子は落とし主らしい。

ライモンシティのあの辺りは観覧車にジェットコースター、つまり遊園地に当たるので落とすのも仕方ない。
ライブキャスターの落とし物は、初めて見たけれど。
さすがに貰うわけには、いかない。


『そ、そんな!助かります!……そっかあ、あそこかあ。
休憩中に触ってたから、その時にカバンにちゃんと入れることができていなかったのかな。
ほ、本当にありがとうございます!』


常日頃から目と目が合ったらバトル、という生活を続けているからか、和む。
イッシュリーグを制覇してチャンピオンになれてからは、強者とのバトルも増えたし、上には上がいるというか。

ここ最近、ジョーイさん以外と会話していなかったからか予想外の会話はゆとりを持たせてくれた。
もっと僕もライブキャスターを使おうかな。
母さんやアララギ博士、チェレンさんにベルさんは忙しそうだしそんなに掛けられそうもないけれど、
ヒュウくんだったら同じく旅をしているし、ちょっとくらいなら話してくれそうな、そんな気がした。
半ば僕の期待だけども。


「ポケモンセンターに届けに行こうと思ったんですけど、良かったら僕が直接お届けしましょうか?」


『いいんですか!?……って、う、ああ。す、すみません。
仕事が立て込んでいてそれはちょっと……今も合間に前使っていたライブキャスターで掛けているんです。
嬉しいんですけど、その、ごめんなさい……』


真新しいライブキャスターに女の子の顔が映らないのも、それならば納得がいった。
尻すぼみになった言葉が、申し訳なさそうなのを顕著にしていて。

律儀だなあ、しかしそれならばポケモンセンターに届ける他ない。
じゃあ、と切り出そうとした所で言いにくそうに女の子はそろそろ声を出す。


『私はルリといいます。私が取りに行くことができる時が来るまで、預かっていてもらってもいいです、か?』


え、と。
時間がしばし急停止する。

ご注意ください、警告もなしに止まられてしまうのは何だか反則技めいていた。


「僕はキョウヘイです。えっと……僕でよければ、いいですよ」


『ありがとうございますっ!わ、先輩が呼んでる……それじゃあ、キョウヘイさん。また』


通話が、プツンと途切れる。
それじゃあ、また。

ちょこっとくすぐったくて、嬉しいような恥ずかしいような。
ルリちゃん、かあ。
口の中でだけ呟いてみて、上がっている口角を慌てて引き締めた。

不純な想いを、邪な想いを寄せてしまいそうで、そんなの思っちゃダメだから。
僕の名前を呼んでくれたのはとっても、とっても。


「そうだね、また」


次はいつ、掛けてくれるのだろうと楽しみにしてしまう気持ちは変えられない。
ルリちゃんはどんな仕事をしてるんだろう。

バックに落とし物を仕舞って、一歩を踏み出す。
リーグに再戦しに行けるように、さあレベルを上げなければ。
世界はまだまだ、わくわくすることで溢れてるから。



昨日ルリちゃんにライブキャスったら、休みの日に散歩してて落とした、って言われて戦慄。
お散歩好きなんだね交換も好きなんだね!
今度交換したいです、って言ってくれて嬉しかった。
ごめんもうネタバレ見まくってるからルリちゃんと交換できることは知ってるんだけれども。
知る前に書いたので、休憩中にいじってたとか許してください……。

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