小説

□ばいばい、昨日
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(イエロー)



彼女は一日の終わりにいつも、必ずといってもいいほど時計をぼんやりと見つめる。
それは風呂上がりの髪を乾かす合間にだったり、寝る間際のベッドに横たわる前だったり、明日の準備を整えてからだったり。
時間帯はまちまちだった。

この習慣がどうして身に付いたものなのか、そもそも自覚したのも最近のことなので彼女自身も分かっていない。
今日も今日とて、チュチュの頭を撫でている間にぼんやりと、時計を眺めていた。

ちくたく控えめな音をしっかり刻みながら過ぎていく時間は、心地よくもあり悲しくもある。
不思議な気分だ、まるですべてが無に帰すよう停止するような。
時を告げるものを見ながら停止だなんて、おかしいのは重々承知だけれど。

ほう、と感嘆の息を漏らした。
特に感嘆するようなこともなかったけれど、こうやってぼんやりすることにも意味はあるのだろうとイエローは思っている。
自分の中でストンと上手いこと物事が処理されるために必要な時間なのかもしれない。
そうだとしたらとても有意義だ。

一抹の胸苦しさは消せないけれど、そう思った。


「もうこんな時間、かあ」


壁掛け時計と目覚まし時計がシンクロして動く。
どちらかの電池に終わりが近づいたとき、どちらかが遅れだし差が開くようになってしまうのだろうか。
そんなことになるのは、できるだけ先の未来だといい。
来ないような未来なら、なおのこと。

カチッ。
時刻が明日を跨いだ。


「ボクは、悲しいのかな。苦しいのかな」


意味も理由もない。
自分の意図が千切れてしまったように、途切れてしまったように感ぜられた。
意識せず口から転げ落ちた言葉にイエローは、ボクが一番驚いたに違いない、なんて場違いに思う。
ここには彼女以外に人は居らず、一番も何も自分の他に驚く人がいるはずもないのだが。

ぱちぱち、目をしばたかせるとあくびが出た。
もう寝るべき頃だった。

立ち上がってのそのそとベッドに潜り込めば、チュチュもモゾモゾ動いてやってくる。
小さな温かさはわだかまりを溶かすようで、安心する。
大好き、ずっと一緒にいよう、そんな気持ちで溢れている。


「おやすみ、チュチュ」


そっか、そうかもしれない。
目を閉じる間際、明るい黄色と壁を瞳に映しながらイエローは妙に確信的に思った。

もうすでに昨日になってしまった日に、さよならを。
ばいばい、もうやってこない日。
楽しかったよ、ありがとう。
また思い出させてね。

夢の中で彼女は、戻れない日々を振り返った。













我ながら意味不明ですごめんなさい。
しかもやはり遅れました。イエローお誕生日おめでとう!

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