小説

□四月一日
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(ルサ)


嘘つき。
いつもの分かりやすい彼女は急になりを潜めて、小さく冷たく呟かれた時にはもう、遅かった。
え?どういうこと?
ゆっくり少しずつしか脳が理解していかない。

嘘つき、嘘つき。
きびすを返したと思えば、彼女はとてつもない速さで木々をつたい、森の奥へ奥へと潜り込んでしまう。


「待って、待ってってば、サファイア!」


「あんたのことなんち……あたしもだいっきらいったい!」


言葉だけが帰ってきて、彼女自身は見えなくなってしまった。
自然と、足が止まる。
こんなささいなことでこんなことになるなんて。

ああ、あああ、頭痛がする。
誰も彼女に教えたりしなかったのだろうか。


「…………クソ」


ぺたん、と膝をついて座り込めば自分の無力さに視界がにじむ。
けれど、けれどそんなことをしている場合ではないのだ。
彼女を追わなくては。

ちゃんと言わなくちゃ、伝わらない。
自分以外の人間のことなんて、分からないに決まっている。
言葉を交わし、知ろうとしなければ誰とだって分かりあえない。
探さなくちゃ、立ち上がって拳に力を込め、走り出す。

どこにいるか、頭ではまだ答えはでないままだけれど、こっちだと第六感が叫んでいる。
第六感だなんて、僕には全然無いのだけれど。
森を駆けながら、彼女のことだけを思った。













「やっぱり、か」


たどり着いたのは秘密基地。
僕と彼女の内緒の場所。
なるほどここなら、彼女がいても納得だ。

無駄だとは知りながらも、音をたてないように近づいて中に入る。
小さな声で彼女を呼ぶと、案の定答えはなかった。
しかし、なんて上手く隠れるのだろう。
僕があれから物を増やしたからだろうか、それでも隠れる場所なんてあまりないはずなのに。

頭を掻いて一度、ぐるっと辺りを見回した。
変わらない場所。
もしかしたら本当に彼女はここにはいないのだろうか。
だとしたらどこに。
僕は、どうしたら。


「…………サファイアなんて大嫌いだ」


ズルズル壁にもたれ掛かって座り込み、呟いてみる。
なんて、なんて空虚な言葉。
それでも、自分で言ってみたのにじわりと目が熱くなる。
僕はなんてことをしてしまったのだろう。

このままだと本格的に泣いてしまいそうで、誰もいないかもしれないけれど、彼女がいたらいいなと思いながら言葉を連ねた。
すなわちこれは、弁明だ。
謝罪の弁明。


「嘘つき。そう、そうだよ。僕は嘘つきだ。
 きっとサファイアははぐらかし続けた挙げ句に、返事をしたと思ったら平然と僕がそう言うから。
 信じられなかっただろうね」


僕が悪い、自業自得だ。
ぽたり、堪えきれなくなった大粒のしずくがカラフルなカーペットに落ちて、色をにじませる。
僕らの間にあったはずの絆や何やらも、こんな風に落ちて消えて、なくなってしまうのだろうか。
そう思うと後悔してもし、きれなくて。


「ごめん。ごめんね、サファイア。嘘なんだ、嘘なんだよ。
 他愛のない……でも、たとえ嘘でも使ってはいけない、言ってはならない嘘だった。
 僕は思いもしなくて、口に出した。ごめん」


とん、と控えめに右肩に触れられた。
びくり、体が震える。
まさか本当にいたとは思えなくて、でも彼女以外の誰かとも考えられなくて。
うつむいたままの下、カーペットには誰かがいる証を映すように影ができていた。
情けないけれどそろりそろりと、顔をあげる。


「サファイア」


へへ、と彼女は泣きそうな顔で笑った。
涙でぐしょぐしょ。
指摘され、笑われて恥ずかしい。

いつから持つようになったのか、慣れた手つきでハンカチを取り出したかと思うと、遠慮容赦なくごしごし顔を拭かれる。
なかなかに痛い、でも、嬉しくもあった。
言葉が続かないまま、奇妙に居心地の悪い沈黙が流れる。
目をつむっているので僕からは彼女の顔が見えず、怒っているのだろうかと思うと肝が冷えた。


「来てくれて、ありがと。
 来なかったらどうしようかと思ったてたけん、ホッとしたんよ?」


不意にハンカチが離れた。
目を開ければ、くりくりした丸い瞳に見つめられ、心臓が跳ねる。
僕の心情を窺うかのように覗き込むのは、僕の心拍数が限界値を叩き出しそうだからやめてほしい。


「あたしも、嘘つき。今日が何の日かってことくらいは知ってたとよ。
 ブルー先輩が教えてくれたったい」


言葉をそこで、彼女は区切る。
先ほど僕は彼女に言いたいことをぺらぺら一人で言ってしまったので、黙って聞く他ない。
手持ち無沙汰もいい所だ。

けれどその発言には驚きを隠せず、声をあげてしまう。
だったら、どうして。


「ルビーはびっくりしたと?」


「……当たり前じゃないか」


僕は君に嫌われたくなんかないからね。
心の中でだけ呟いたはずの言葉はしかし、どうやら口に出ていたようで。
途端に彼女の顔がボッと音をたてるがごとく紅に染まる。
可愛くて、思わず笑ってしまった。


「あ、あたしも!ルビーにだけは嫌いなんて言われたくなかったけん
 ……嘘っぱちだって分かっていても、あたしも嘘をつき返してしまったったい」


薄々と感づきはじめてはいたが、面と向かって言われ改めて安堵した。
よかった、そうだったのか。
目の前の好きな子に両腕を広げ抱き込むと、彼女は目を丸くさせて口をぱくぱくと動かした。
初な反応がかわいくって、幸せを噛み締める。


「じゃあ、来年は違う系統の嘘をつくことにしようかな」


「えっ!?ルビーのいじわる……嘘なんてつかなくてよか」


「どういう意味だい、それ」


小馬鹿にされたようで少しばかりムッとしながら返すと、彼女ははにかんだ。


「ルビーの嘘なんち、あたしは全部分かってるけん」


恥ずかしそうにちょっとだけ目を伏せて、照れたように笑う彼女に僕は悟る。
それならば嘘なんて、意味はないに決まっている。
嘘なんていらないか。


「大好きだよ、サファイア」


「あたしも好きったい!」


本当の言葉は暖かくて、嬉しくて。
やっぱり嘘はよくないな。
顔を見合わせて笑ってから、今更ながら恥ずかしくって僕らはそろって照れ笑いをした。


 四月一日













ありきたりですが、せっかくなのでエイプリルフールネタ。
あんまり書いてなかったのでルサで書いてみました。

第三者から見たら爆発しろと言いたくなる系の甘い話を書きたかったんですが……あ、あっるぇ……。
サファイアの方言がこれじゃない感が満載ですみません。

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