小説

□君を救う言葉が欲しい
1ページ/1ページ





(セトとアヤノ)



※「一週間フレンズ。」パロ。
 家族以外の親しい人との記憶が一週間しか保てず、月曜日には
 記憶がリセットされてしまう、という設定だけのパロ。



僕らは新しく家族になった。
家族になったのに。
お姉ちゃんは口では弟妹だといったけれどまだ僕らを家族とは、思っていないようだった。

お姉ちゃんは朝が苦手だ。
そろそろ学校に行かなきゃ遅刻するよ、とアヤカさんが声をかけるも、部屋から出てくる様子はない。


「ぼ、僕、お姉ちゃん起こしてきますよ?」


「いいの?じゃあ幸助にお願いしちゃってもいいかなー?」


「はいっ」


よろしくね、と大きな手に撫でられてちょっとこそばゆい。
今までこんな風に撫でられたりすることなんて無かったから、ちょっと不思議な気持ちだ。

食卓についたキドとカノが平然とした顔でもそもそとまだ朝食を食べていた。
セトばっかりズルい、と二人の顔には書いてあったけど怖いから見て見ぬふりをした。
だって二人が食べるの遅いから、暇なんだもん!

お姉ちゃんの寝ている、というかみんな一緒に寝ているから一ヶ所しかない寝室に向かいながら、はなこもこんなこそばゆい気持ちだったのかな、と思った。
撫でてあげるといつも嬉しそうに目を細めて、くうんと小さく鳴いてくれたんだ。
一番の友達だった彼を思い出して泣きそうになったけれど、泣いちゃダメだと思い留まった。
朝から泣いてたら、せっかくまだマシになったキドとの関係がまた悪化しそうだと思ったから。


「お姉ちゃん、朝です。
 起きないと、ええと、学校に間に合わないみたいです」


「んにゅうー…………あと五分だけ……」


「寝ちゃダメですようっ!」


ふとんに潜り込もうとするから、慌ててしゃがみこんで肩を揺らす。
お姉ちゃん、ともう一度言うとゆっくりと大きな瞳が開かれた。
僕のおっかなびっくりな顔が彼女の目に映る。


「おはようございます、お姉ちゃん」


ぱちぱち、何度も彼女は目をしばたかせた。
それから目をこすって、小さな声で「だあれ?」と告げる。
言葉を失わない理由がなかった。


「え、と?寝ぼけて、るんですか?」

「あ、もしかして君が来てくれた子なのかな!?お姉ちゃん、って呼んでくれたし!
 三人、ってお母さんは言ってたから、あと二人いるんだよね。会うの楽しみだなあ」


にこにこと笑いながら話すお姉ちゃんの目は、冗談なんかじゃなかった。
本当なんだ。僕のこと、僕らのことを、お姉ちゃんは覚えていない。


「どう、して。ですか?お姉ちゃんは病気なんですか?それとも」


じわじわと目に熱が集まるのを感じた。
ダメだと知っているのに、止めなきゃと思うのに徐々に鮮明にお姉ちゃんの心が「見えて」きてしまう。


「病気じゃないよ。でも、あれ?病気なのかなあ」


『困ったなあ、家族になるから大丈夫だと思ったんだけど』


赤色の目に気付かないのか彼女ははにかみながら話を続ける。
僕は何も言えなくて、きょろきょろと行き場のない視線を辺りで泳がせた。


『でも、信じてくれるかな』


「私ね、家族以外の親しい人の記憶が消えちゃうの」


心と同時に聞こえた声は、諦めたような寂しさがあった。
嘘偽りはない。そんなこと、分かってる。
それでも嘘だと、信じきれない僕は臆病者。
真実から目を背ける小心者。


「これから一週間のことを、私はまた忘れてしまう。
 でも、いつかきっと本当の家族になれたら忘れないから、お姉ちゃんを許してくれないかな?」


「え、ゆ……許す?」


思わず反復するとお姉ちゃんは、真剣な瞳で僕を映してうなずいた。
家族なのに、家族になりきれなくてごめんねと、彼女の心は泣いている。
どうしようもなくって、僕は僕よりお姉ちゃんが悲しいはずなのに、目に涙を浮かべだしてしまう。
カッコ悪いなあ、僕。

こんなんならカノみたいに欺ける力が欲しかった。
キドみたいに隠れられる力が欲しかった。


「…………ごめんね。起こしてくれてありがとう。みんなにも内緒にして、くれる?」


優しくお姉ちゃんが僕の頬を撫でた。
溢れた涙を拭ってくれる。
ううん、僕こそ謝らなくちゃ。
言葉がなくても分かり合えるようになりたかった。
それなのに、見えないことに僕は気付けなくて。

首を振って、泣き止めないままに「僕こそ、気づけなくて、ごめんなさい」と謝った。
涙に濡れた視界ではよく分からなかったけれど、お姉ちゃんが目を見開いたのが分かった。
それから、ゆっくり頭を撫でられる。
アヤカさんとは違う少しぎこちない撫で方に、きゅっと胸が苦しくなった。


「優しいね。
 ね、バレちゃったついでにこれから私にみんなのこと、教えてくれない?」


「……はいっ!」


ありがとう、約束だよ。
ずっと憧れていた指切り元万を初めてした。
絡めた小指が熱くて、目も熱くて、僕の涙はなかなか止まってくれない。


『本当にごめんね。ありがとう』


お姉ちゃんの心から聞こえる僕への思いの言葉は優しくて。
だからいっそう泣けてしまったのだけれど、それは一生内緒にしておこうと思ったんだ。


「ちょっと、いつまで掛かってるの。っていうか何でまた泣いてるの」


「うわっ!どうしたのセト!?」


結局、遅すぎて様子を見に来たキドとカノに見つかってしまった。
お姉ちゃんのことはバレなかったけど泣いてるのがバレて怒られて。
遅刻ギリギリに行ってきまーす、とお姉ちゃんの楽しそうな声が聞こえた。

お姉ちゃんが帰ってきたら、すぐにキドとカノが分かるような説明を考えておこう。
先週の楽しかったことと、お姉ちゃんの言ってくれたこと、今日からたくさん覚えなきゃ。
早く本当の家族になれるように、僕も頑張るね。
お姉ちゃん。


 君を救う言葉が欲しい










アヤノをセトも助けていたんだよ、って話を書きたかった。
それにしても長い。すみません。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ