小説

□雲ひとつない空のした
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(遥貴)



腹が立つ、と言うとまあまあそんなに怒んないでよ、と彼はいつも眉を下げて笑った。
あんたが原因で怒っているのに、その間の抜ける行動に私は毎度気を新たにさせられて、いつの間にかしょうがないかと考えを変えさせられてしまっている。
それもそれで腹立たしく、結果として私はいつだって怒っていたように思える。

その日も、可愛くない後輩と口論をしてしまったが、可愛すぎるいい子な後輩と遥になだめられ、ふつふつ煮え立つ怒りを内部に留めていた。
人間もゲームと同じように成長するんだなあと自分のことながら、しみじみと思う瞬間だ。
我慢なんて苦手だから。
あれ、ゲーム内の成長は人間の成長を模したものなのだろうか?
だとしたら私の考えは見当外れの正反対なのだけれど。
脳内でそれこそ、関係のないことで悩み出してしまえばそのことに思考が集中する。


「そうだ貴音、駅前に新しくクレープ屋さんができたの知ってる?」


後輩たちが帰ってしまったので屋上はいつにもまして閑散としているような気がする。
何でも二人は、次の授業が体育なんだとか。
こういう時に特殊学級だと痛感させられる。
私たちの時間割りの中に、体育の授業はない。


「は?クレープ?」


女子かこいつは。
フェンスにもたれ掛かりながら返すと、うん、と嬉しそうに遥はうなずいた。
考えてみればいつも、屋上でも私はアイツといがみあってばかりで、遥はアヤノちゃんと話していることが多いように思える。
話の内容ものんびりとしたものだし、似た者同士なふしもあると思うし、話が合うんだろうな。
ちょっと悔しい。


「うん、クレープだよ。貴音は嫌い?」


「嫌いってわけじゃあ、ないけど……」


気になるのはお腹回りだ。
お腹をさすると、遥にしてはめずらしく、察してくれたようで悩むようなそぶりをみせる。


「ううん、それならどうしよう。
 開店当日に行ってみて美味しかったから僕、貴音と一緒に食べたいなって思ったんだけど……」


残念だな、と寂しそうに笑うのだからたちが悪い。
跳ねた心臓がうらめしかった。


「べ、別に食べてあげないこともないけど?
 どうしてもって遥が言うならしょうがないし」


謎にツンデレのような言を吐いてしまう。
バカか私は。
自己嫌悪に浸りかける私に、遥は何を思い付いたのかロクなことがなさそうだが、たいそう嬉しそうに声をあげる。


「じゃあさ、半分こはどう?」


「はっ、半分こ……!?」


遥は別にいくつか他にもクレープを食べるのだろうけど、そんなことはどうでもいい。
遥とクレープ半分こ。
破壊力が尋常じゃない。


「ちょ、さすがにそれは。アヤノちゃんたちもいるし!」


「え?」


心底驚いたように遥は私を見て、目をぱちぱちとまばたかせた。
キョトンとした顔が、いちいちあざといと思うのは私だけだろうか。
ちくしょう狙ってるのかこいつ?
でも遥に限ってそんなこと、ないだろうからなあ。


「そっか、アヤノちゃん達を呼んでも楽しいかも。
 でも、貴音と二人で行くつもりだったからなあ」


話していないの!?
あんなにいつも楽しそうに話しているのに?
てっきり四人で行くものだとばかり思っていた。
から、そんなのはズルい。ズルいものは、ズルいんだ。


「二人なら……半分こでも、いいかも」


きっと私、いま真っ赤だ。
途切れながら、目をあわせずにそう吐いたのに遥が目を輝かせたのが分かった。
分かりやすいなあ、もう。


「やった!じゃあ今日、一緒に行こうね、貴音!」


タイミングよく予鈴が鳴り響いた。
そろそろ教室に戻らなきゃね、って階段を下り出す。
遥が前を歩いてくれてよかった。
だってこんな顔、いつもと違いすぎて、とてもじゃないけど人に見せられそうもなかったから。


 雲ひとつない空のした










好きだけど書いたことなかったなあ、と思って書いたもの。
3月頭に最初だけ書いてそれから放置していたものを終わらせました。
何番煎じ感がすごいしますごめんなさい。

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