小説

□僕じゃヒーローになれない
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(孤児院組)


※中学の春くらいの学パロ




帰りのHRが終わって、帰り支度をしていると掛けられる声。


「セトぉー、帰ろ」


へにゃり、目を細め口角を上げていつも通りの笑顔を顔に張り付けるとカノは僕の肩に手を置いた。
スキンシップが激しいのはいつものことで、だけど最近はキドが「うっとうしい」と言うのもちょっと分かる気がする。
それでもカノにそれを直接言う気にはなれなかった。
偽善かもしれなくとも、僕は誰かを傷つけたりしたくなかったんだ。

うん、帰ろっか。
そう返すと、慌てたようにかばんを持ち直して、キドの声が背中を追い掛けた。


「待って、私も」


毎日同じ帰り道、お馴染みのメンバー。
変わらない日々を嬉しく思いながら、僕らは帰路につく。
一緒に帰ろう、なんて約束を取り付けたりしたことは一度もなかった。
ただの一度も。

だって向かう先は、行き着く先は同じで、そして何より僕らはお互いを誰よりもよく理解していると思っていた。
思い込んでいた。
一緒に帰るのは当たり前だと思っていたから。
少なくとも僕は。


翌日も僕らは一緒に帰った。
カノが冗談を言って、僕もキドも笑った。
カノは本当に口が上手いと思う。
僕も頑張らなくちゃだ。
このままじゃ前に孤児院のテレビでもいっていたような「しゃかいふてきごーしゃ」のような「にーと」になってしまう恐れがある。それだけは避けなければ。

それにマリーに向かってあんなことを言ってしまった手前、実は僕、今も怯えてるんだーなんて笑えないし。
怯えなくてもいいと、お姉ちゃんが教えてくれたようにマリーに言ったのは僕だ。
それを体現しないでどうする。

体を動かすのは嫌いじゃないし、あとは人前でちゃんと話すことができればなあ。

カノを真似て、僕も思い付いた冗談を言ってみた。
驚いたようにカノもキドもみるみる目を見開いていくから、どんどん言葉は尻すぼみになってしまった。
熱でもあるのか、変なもの食べたのかって心配されてしまうし、ああもう、上手くいかないなあ。
僕について話す二人に、僕だって冗談を言ってみたりするよ!と主張すると、また目を丸くされた。

コソコソひそひそ話すなんてズルい。
僕も仲間に入れてよ、って泣きそうになりながら言うと、いつものセトに戻ったと笑われた。
二人ばっかりが僕をからかって、ひどい。


その日もカノは僕に、帰ろうと言った。
今日もキドには言わない。
それを僕は、何故だろうと思いながらも言い出せずにいた。
だってもう、今さらのような気がしてはばかられる。
そろそろと上目にカノを見ても、彼はへらへら笑うばかりで何を考えているのか分からない。

ほんの一瞬だけ、カノだって目の力を使っているのだから僕も心を読んでやろうかな、なんて
意地悪なことを思ってしまって、自己嫌悪。
そんなことは嫌がられることで、しちゃダメなのに。
僕は、最低なことを考えた。

そうやって余計なことばかり考えてクヨクヨしながら歩いていたから、気付くのが遅れた。
もうあと少しで家につくという頃になって違和感に気づく。


「あれ、カノ。キドは?」


「キド?さあ、どうだろう。もう家に帰ってるかもしれないけど、まだ学校かもしれないね」


どっちかなんて僕も分かんないよ。
肩をすくめて笑うから、僕は少しだけぞっとしてしまう。
絞り出した声が震えた。


「なんで?置いて、きたの?」


「なんでって言ったって、ほら、キドも一緒に帰ろうとは言ってこなかったし」


平然と言い放つ。
そうかもしれないけれど、そこで首をかしげないでほしかった。
いつも一緒に帰っていた。
当たり前だった。
のに、それが壊れてしまって。


「そんな、僕、学校に戻る」


「もう帰ってるかもしれないよ。それに」


セトだって今日、キドについて何も言わなかったじゃん。
揚げ足をとるようなそんなこと、カノが言うなんて。
何かの間違いであってほしかった。

僕はどうすることもできなくて、どうしたらいいのだろう。
涙が出そうになるのも、どうしたら、いいのだろう。


気付くには僕が鈍くて、遅すぎていた。
最初に置いて帰ってしまったあの日から、明らかに僕とカノとキドの間には溝ができてしまっている。
二人とも何も言わないし何もしなかったけれど、僕は何とかしたくて頑張った。
ほとんど空回ってしまったけれど。


「セト、かーえろっ!」


「う、うん!キドは?」


カノに言われてすぐにキドに振ると、彼女は小さく首を動かし肯定を表す。
このやりとりも何度目だろう、今日も断られなかったことに僕はそっと心の中で安堵した。
キドは僕が声をかけると顔を上げるけれど、帰り道の間中ずっとうつむいたまま。
いつからか下校時間は沈黙の苦しい時間になっていた。

その原因はカノにあると思う。
心なんか読まなくたって、キドの気持ちはある程度分かる。
無視されてるわけじゃないけど、誘われない。
それを本人が特に何も思っていないのだから、悲しくもなるだろう。
前方を飄々と歩く彼は、今日もキドの方を見ない。
話し掛けたりはするけれど、普通に話すけれど、どうして顔を合わせないのだろう。

キドが可哀想だって、ちょっとは思わないのだろうか。
思わないんだろうな。
いっそのこと欺いた彼の本音を覗いてみようか。
けれど、都合よく理由がわかるとも思えなかった。
誘導尋問だなんて高等なことができるとは、なかなか思えない。
僕じゃなくて、カノが他の人の気持ちを読み取ることができたらよかったのに。

カノは他の人の優しさの対処がとても苦手で、見て見ぬふりをしてばかりだから。
カノはとっても口が巧みなのに勿体ない。
それに、たとえ読み取ることができても、僕は何もできなくて無力だけれど、カノなら。




僕じゃヒーローになれない













長い。
カノがキドのことを置いて帰ろうとする話。
ぐだぐだしすぎだ……うああすみません……。
キドは悲しんでいるのだけれど、それに気付かないカノにセトが板挟みになって悩んでいたりしたら、
可愛いなあと思ったんですが伝わりませんね!ごめんなさい。

オチとしてはカノはキドのことを女の子として意識しちゃって、一緒に帰るのが恥ずかしいとかじゃないでしょうか。
このあとカノにキドが直談判しにいってカノキドになったら、それはそれで楽しそう。
セトの居場所のなさが深刻になりますが。

ずいぶん前に書き出したものを終わらせたので色々おかしくなったと言い訳します……ごめんなさい……。

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