小説

□目標地点
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(セト)



もう泣かない、って決めたんだ。
それは森の中で可愛い女の子に会って、臆病な彼女に、臆病でも変われるんだよとお姉ちゃんのように教えてあげるため。
キドとカノを困らせないため。
最後に、あの日みんなして憧れたヒーローみたいに、強くなりたいって、思ったから。



ふとんの奥に潜り込んで、真っ暗闇の中で小さく呼吸を繰り返す。
その内にどんどん熱くなってきてしまって、耐えきれなくなると顔を出して、ぷはあっと息を吐き出すんだ。
そうすると悲しかった気持ちも、泣きそうだった思いも分からなくなって、ちょっぴり冷たく感じられる空気を吸うことができる。

それを数回繰り返すと、自然とまぶたが落ちてきて、気づけば眠ってしまっているんだ。
すぐに明日の朝がやって来る。
泣くのを我慢する方法として思い付いたのはこんなもので、だけどこの行動にきっとキドもカノも気付いてた。
それでも二人とも何も言わなかった。
それは慮ってのことで、優しいからだと思う。
その優しさに甘えて今日もふとんにもぐってしまうんだ。
光の届かない暗闇に、負の感情を置いてくるために。


次に思い付いたのは、手の甲をギュッとつねることだった。
目の力はカノが言う通り、痛みを感じたりすると発動しなくなるようだったし、
何よりすぐ悲しさや苦しみを転換できて、これはかなり有効な策として使うことができた。
ふとんにもぐるのはやりやすかったけれど、その場での感情をベッドまで持っていくのはなかなかむつかしいこともあったから。

この方法を思い付いてからは本当に泣かなくなった。
泣かなくなった。嘘じゃないよ?
でもすぐに、問題が生じてしまったのだけれど。
キドもカノも、それからマリーも甲の爪痕に気付いてしまったから。


それから、泣き貯めしておくだとか、ずっと笑顔を保つだとか、色んな方法を思い付いては試していった。
どれもうまくいかなくて、最後に行き着いた方法は情けないほど単純で、それでいてむつかしいことだった。


「お姉ちゃんみたいになろう、って思ったんです。……今なんかじゃ、こんな風に敬語だって使っていないんですよ?」


八月十四日。
お姉ちゃんの命日には午前も午後もバイトが入ってしまって、何より十五日なんて混むに決まっている。
久々に訪れたお墓には人は少なくて、じりじり太陽が頭を焼いていく。
墓石のまわりを、ゆらゆらと陽炎がゆらめいていた。


「お姉ちゃんみたいにずっと笑っていられるわけじゃないですけれど、これでも結構、周りを笑顔にできるようになりました」


毎年している報告に、今年は気紛れに自分が変わろうとしてきたことを話しかけてみた。
昔の口調のままで話すのはむしろ恥ずかしくて、妙な感じがしてしまう。


「まだまだキドにもカノにも頼りっぱなしで、僕が頼られたりされることは全然なくて。
いつか僕に、頼られるように、僕は泣かずにこれからも笑っていきたいです」


お姉ちゃんがいなくても、僕はちゃんと笑って暮らせてるよ。
またね、お姉ちゃん。
生けた花の向きを整えて呟く。
かぶっていないフードをかすかな風が揺らした。
そのわずかな風に乗って、泣きたいときは泣いたっていいんだよと、お姉ちゃんが言ってくれた、そんな気がした。


 目標地点

 (みんなが幸せになれるなら、俺はもう泣きたくたって泣かないよ)












セトがアヤノに話してるだけ。
セトに幻想を抱きすぎ感がなきにしもあらずー、ですがいつものことなので気にしないでください(汗)

アニメでのセトがかっこよすぎて勢いのまま書いたので……これもいつも通りですが意味不明でしたね。
セトはもっとカッコいい。

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