小説

□みどりの日はラムネの日
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女の人はブルー、と名乗った。
話を聞く限り、どうやらこの人はカントーの図鑑所有者の一人らしい。

先輩らしいその人に、安心して事情を説明するとオーキド博士の行方なら博士のお孫さんが知っているかもしれない、とのこと。
なんと、親切なことにそのお孫さんの元まで連れていってくれると言う。
今日はみどりの日だからどっちにしろ行く予定があり、ついでだから気にしないでと言われたもののありがたくって、何度も頭を下げた。


「でもみどりの日だからって、どうしてそのお孫さんのところに行く予定があったんですか〜?」


不勉強なオイラに非があるのだけれど、みどりの日って何の日なのかよく分からない。
少なくとも母の日や父の日みたいに、誰かに感謝する日ではなかったはずだけれど。
首をかしげながら尋ねると、そりゃ不思議に思うわよね、とブルー先輩はふふふと笑った。
本当に綺麗な人だなあ。


「名前がね、そいつ、グリーンっていうのよ。知らない?
一応、カントー最強の最後のジムリーダーやってるんだけど」


「知ってます〜!タウリナーΩに出てきた!」


「あら、タウリナーΩが好きなの?」


はいっ。
嬉しくって答えると、私の弟もね、タウリナーΩが好きなの。
一緒ね、なんて言ってブルー先輩はクスクス笑った。
あれ、何で笑うんだろう。よく分かんないなあ。


「だったら話は早いわね。
今日はグリーンに、ゴールドとレッドがイタズラを仕掛けるの。私はそれを見に行くのよ」


「レッドさんもいるんですか〜?」


絶対に会えるはずがないと思っていた人。
ピカ隊員やニョロ隊員に会えるかもしれない!
でもどうしてイタズラなんかするんだろう?
うーん。考えてもぜんっぜん、分かりそうにないや。





「食らえグリーン!」


「避けても無駄っすよ!俺はこっちいるんで!」


何やら賑やかだな、と思っていたら扉を開けるとすぐにベタベタした液体を顔面に掛けられて、一瞬何が起きたか分からなくなる。
やっちゃった、ってひどくすまなさそうな顔をした人(ブルー先輩からの話を聞く限り多分この人がゴールドさん)にすぐ謝られた。
いえ〜大丈夫です〜。
返事をしてから、ハッとデータのことを思い出して急いで確認した。
良かった、リュックに入れておいたお陰で濡れることもなかったみたい。
でも警戒しなきゃだな。

とりあえずごみ袋用に持ってきていた袋を広げて、その中に入れておく。
まだごみが出るようなことがなくてよかったあ。


「こいつ誰なんすかブルー先輩。急に来たらびっくりするじゃないっすか」


「こっちだってびっくりよ。今年もラムネ掛けてるの?」


「ら、ラムネぇ!?」


聞いていたら変なことを言い出すものだから、聞き返してしまう。
どうしてラムネを?しかもグリーンさんに掛けているみたいだし。
見ると、奥の方ではレッドさんがグリーンさんに危嬉々として瓶を向けている。
多分ラムネを掛けようとしているんだろう。


「あ、イッシュ地方だと野球で勝ち続けたチームはシーズンの最後にビールを浴びるっていうし、それと同じ感じなのかな……?」


「ん、知らねーの?五月四日はみどりの日、んでもってラムネの日。
つまり、グリーン先輩にラムネをかける日なんだよ」


「そ、そうなんだ〜」


知らなかった、帰ったらパールにもお嬢様にも教えてあげないと。
ゴールドさんは物知りなんだなあ、と思っているとオイラも入ってきたの背後の扉がパアン!と開け放たれる。
うわ、なに、どうしたのこれ〜?


「レッド先輩、ゴールド!どうしてまたこんなことをしているんですか!」


いかにもご立腹といった風で、扉を蹴破ったのか足を上げてのご登場。
真面目そうな、こんなシチュエーションで出会わなければきっと優しそうな女の人は、ばさばさと風に白衣をはためかせる。
うっかり正義の味方に見えちゃいそうなくらいにカッコいい。
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