小説
□愛とも言うその暴力で
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(遥貴)
※貴音がいつにもましてキレています。前半は在学中でカゲロウデイズ接触前。
「い、いたいよ貴音っ」
例えばそれがちょっと涙で潤んだ顔で、座っていたから必然的に上目遣いで。
私を一心にお願いをしてくるのは、男だと知ってはいてもかなり可愛らしいものだった。
だからしょうがないと思うんだ、心が不意に、きゅんと鳴ってしまって理不尽にまた殴ってしまったことだって。
「う、あ、その…………ごめ、ん」
ハッとした時にはもう遅くて、いいわけをしているんだからたちが悪い。
言い慣れない謝罪を口にして、どうしていいか分からずに視線をさ迷わせれば彼は目尻を下げた。
悪いことをひとつだってしていないのに、僕こそごめん、なんて言う。
「は?何で遥まで謝るの。悪いのは私じゃん」
「うえ、そうだけど、ひい、分かったから殴らないでっ……」
あ、ごめん。つい癖で。
べしべしと振り下ろしていた手を下げると遥はホッとしたようにへにゃりと笑った。
あんまりにもきれいに笑うから見惚れてしまって、照れ隠しに喧嘩腰で言葉を続けてしまう。
「なに笑ってんの」
「だって貴音、本当にそのヘッドフォンを大事にしてるから」
「…………ああ、」
そうだった、私が毎日つけているヘッドフォンの話をしていたのだった。
大切にするに決まっている、これはおばあちゃんに買ってもらった物なんだから。
それにしても、ヘッドフォンを大事にしているからといってどこにあんなにもきれいに笑う要素があったのだろう。
分からない。
首をかしげてから、結論が出なさそうだったので手っ取り早く彼の机を強打。
ばんっ、教科書をちゃんと入れているらしく、カッコつかない鈍い音が響いた。
「いや、意味わかんないんだけど」
「た、たいした意味は僕にもないよ!
貴音がそうやって、同じものを何年も使い続けているのを見たら、何だかちょっと、いいなと思ったんだ」
頭をかばいながら怯えたように言うので、心当たりがありすぎてむしろ落ち込んだ。
普通はそういう反応するよね、そりゃあ。
分かってるよ、分かってたけど、うん、やっぱり落ち込む。
「遥も欲しいの?こういう、ずっと使い続けるもの」
ヘッドフォンをあごで示して言えば、彼はこくこくと勢いよく首を縦に振る。
幼稚園児みたいだ、こんなでっかい幼稚園児いるはずないだろうが。
「ふうん。そっか」
「うん。僕、不器用だからいつも落としたりして壊しちゃってばっかりで」
言われてみれば先日もウォークマンを水没させていた。
携帯を猫に盗られたこともあるらしい。
あれ、これって不器用以前の問題のような気がする。
ずっと使えるものをすぐプレゼントできたらいいのだけれど、あいにくそんなものは持ち合わせていないし。
どうしたものかな、これ。
「あ。ヘッドフォン、貸そうか?」
「え?」
滑り落ちた私の提案に、遥は身を震わせて。
そんなに大袈裟に反応しなくとも、と言おうとしたときにはこちらに迫ってくる勢いで目を輝かせていた。
正直言うと立ち上がったこともあり見下ろされる不快感も相まってムカつく。ウザい。
「いいの!?貴音の大事な物なのに」
「いいよ。まあ、あげることはできないけどね」
「うん!ありがとうっ」
手渡せばわくわくした表情のままに持って、恐る恐るといった風に装着した。
カチカチとウォークマンを操作して適当な曲を流してやると、嬉しそうに破顔して私を見る。
「すごい……!いいなあ」
「そんなにヘッドフォン好きだったんだ」
知らなかったな、今年の誕生日にはヘッドフォンを買ってあげようかな、なんて。
思うくらいに楽しそうで。
「僕も今度買おうかな……でもまた壊しちゃうかもしれないしなあ」
「誰かからもらった物なら、大丈夫かもよ。私もそうだし」
「そうかなあ?」
心配しないでよ、だから誕生日まで待っててね、遥。
音楽に合わせてリズムをとっているようで、ゆっくりと彼はいつまでも、いつまでも楽しそうに揺れていた。