TOY

□五月二十三日
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遥貴
(キスの日ネタ)



放課後の夕日が淡く射し込む教室で、遥が眠っていた。
私の追試が終わるのを待ってくれていたのだろうか。
そう思うと少しだけ嬉しくて、胸が苦しくなる。
このままここで眠ったままでは体の節々が痛くなるだろうし、学校全体が施錠されてしまう。
気持ち良さそうに寝ているけれど仕方ない、起こそう。

肩を揺すろうと手を置いた所で、彼がルーズリーフの端に落書きをしているのを見つける。
数学をやっていたようだけれど、遥でも落書きをするんだな。
何となく驚いた。
ちょっと意外だったから。

覗き込めば、可愛らしくデフォルメされた犬やら猫やらが描かれている。
なかなか上手い。


「あ、」


遥の腕に隠れてしまってよく見えないけれど、コレはもしかして。
黒髪の、ツインテール。
ヘッドフォンをつけた目付きの悪い、でも目元をほころばせている女の子。
もしかしなくても、スカートのしたにスパッツなんてはいているし、私だ。
私の絵だ。


「…………ん、」


もぞもぞと遥が動いて、けれど目覚めることはなかった。
私は何だか嬉しすぎて、どうしていいのやら分からない。
遥が私の絵を描いた、それだけなのに。
やばい、何で、どうしてだろう。
自分で自分が分からないや。


「バカ。あんたのせいなんだからね」


理不尽に毒づいて、もう一度屈んでよく絵を見てみる。
上手だ、よく描けてる。
何よりも、私が見ても私に見えるくらい特徴をよく掴んでくれていることに頬に血が昇る。
まじまじと見ていると、小さな呻き声をあげてまた遥は身動ぎをした。

顔が、こちらに向く。
え、近い。
そう思った時には彼の頬に私のくちびるが当たってしまっていた。
え、え、……え?


「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


声にならない叫びが漏れる。
慌てて飛び退いたのだけれど、場所が悪くて背中を人体模型で強打した。
かなり痛い。
けれど今はそれどころじゃなくて、大きな音がする。

そりゃあ人体模型が倒れたら、それなりに音もたててしまうだろうけれど、これは大きすぎないかな。
ふるふると遥のまつげが細かく震えて、ぱちりと彼の黒色の丸い目が除いた。
その瞳に映る私はひどくこっけいな格好をしていることだろう。


「…………おはよう」


「おはよう……えっと、貴音、何してるの?」


「………………受け身の練習」


かなり無理のある言い訳に、なあにそれ、と遥は起き抜けだというのにクスクス笑った。
恥ずかしくて、遥のせいで先程のことを思い出してしまって口に手を当てた。
ファーストキスというのだろうか、あれは。
顔が赤いのは夕日のせいだと勘違いしてくれないかな。

差しのばされた遥の手をつかんで立ち上がる。
私よりほんのちょっと上で笑う彼に、何だかとってもムカついた。
私ばっかりこんな思いをさせられて、神様って本当に不平等。
イラつきは鞄の中に押し込んで、いつもの調子を装って、彼に帰ろうと切り出した。
嬉しそうにうなずく彼がほんのちょっと愛しく思えたのは、きっとさっきの事故のせい。









ラブレターの日ネタを書いて、上手く書けなかったのでキスの日ネタで書いてみたらこっちのがまだマシだったのでこっちを先にしました。
遥貴はとても……とてもむつかしいです……。

キスらしいキスじゃなくてすみません。
次からはこれより雑な、クオリティの低いラブレターの日ネタになります。
無駄に長いです。
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