TOY

□彼女についての見解
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(セトとキド)
フラグになってしまった。







降りしきる雨はこの時期だからもう仕方のないことなのだけれど止む気配を一向に見せない。
一時間ほど前からぽつりぽつりと降りだした雨に人通りもまばらになってしまっていた。
ガラス越しに外を見て、帰る頃には小降りになっていればいいのだけれどと思っていると
奥の部屋から顔だけ覗かせた先輩に「瀬戸、」と名前だけ呼ばれて慌てて振り向く。
先輩は時計の方に視線を寄越してからエプロンをするする脱いでいった。


「こっからは一人にしちまって悪いけど、先に上がるな」


「はい。シフト表を見た時から分かってたことっすから大丈夫っすよ、先輩。お疲れ様です」


「ありがとな。じゃあ、お先に」


いつの間に荷物をまとめ終えたのだろう、この分だと先輩、元から早く帰りたくて準備を進めていたに違いない。
控えめに自動ドアが開いて、去り行く先輩に軽く手を振った。
とりあえず特にしなければならないこともないのでレジを軽く操作して、ちゃんと小銭があるか確認する。
よし、これだけあれば一万円で安いガムを買われても対応できる。

がちゃり、きちんと閉めれば外が雨雲で黒に染まったせいで蛍光灯の光がやたら目立つようになった店内に
静かに流れる音楽だけが場を支配した。
雨音は聞こえないので雨足がどうなったかも見当もつかない。
お客さんは誰もいない、正直なところ暇だ。
俺一人なのでレジ前を離れるわけにもいかず、端に置いてある一個20円程のチョコを
何となしに肘をついて眺めながら息を吐き出した。


「晴れていてもこの時間帯はあまり人が来ないんすから、降ってたらなおのことっていうのも納得っすけど……」


暇だ。
品揃えの確認も過不足のないように商品を陳列することもできない。
少し頬を膨らませながら、無意味に指先でチキンやアメリカンドック等を入れているガラスを
ツンツンつついていると不意にドアがすっと開く。
サアサアと細い雨が降る音が耳に届いて、ふわりと湿った空気が香った。


「! いらっしゃいませ!」


姿勢を正して振り向けば、トラックの運転手だろうおじさんが不機嫌そうに入ってきた。
駐車場には大きなトラックが停められていて予想があたりちょっと嬉しい。
店内を物色するおじさんを横目でチラチラ見てしまう。
結局、小腹が空いていたようでおじさんは惣菜パンを二つ買っていった。
一緒に買った飲み物が、結構コワモテのおじさんだっただけに女子高生のよく買う紅茶だったのが少し可愛く思えた。
失礼極まりないけれど。


「ありがとうございました!」


頭を下げる。
すぐにおじさんは行ってしまってまたコンビニは寂しいものに変わってしまうけれど、気分が一新したように思える。
今のお客さんに感謝だな、とりあえず手近にあったビニル袋を取り出しやすいように移動させて、と。


「…………え」


パッと顔をあげると陳列棚を眺めるお客様がいらっしゃって思わず声が出た。
というかキドだ。
やけに真剣にじっと眺めるのはロリポップとして名高いチュッパチャップスだった。
うずうずしているなと思ったら手にとって味を確かめ始める。


「何してるんすか、キド」


「何って、客に対してずいぶんな態度だな。パイン味を探しているんだ」


「……その右手のは違うんすか?」


「これはプリン味だ。色合いは似ているが味は全く違うから注意が必要だ。セトも気を付けろよ」


やけにカッコよく言われて、はあ、と何とも間抜けな返答が出た。
しかしこれはキドが悪いと思う。
いきなりチュッパチャップスについて語り出すから。
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