TOY
□彼女についての見解
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しかし本当にキドは何しに来たのだろう。
まさかそれが目的とは到底思えない、というか思いたくないのだけれど。
「セトは今でも、お姉ちゃんのことを思い出すよな?」
「そりゃそっすけど、いきなりどうしたんすか?」
お姉ちゃんが死んでからその話題は互いに避けるようになっていたので振ってきたことに驚く。
命日でもないのに。
目当てのロリポップが見付かったのか2つ手でもてあそびながらキドは小さくうなずいた。
「いや、カノが。姉ちゃんは幸せだったのかな、なんて言い出したから」
「しあわせ……」
お姉ちゃんは口癖のように言っていたことがある。僕に対しても言っていた、そう、確か。
「世界を嫌いにならないで。きっと、みんなで幸せになれるから」
今度は大きく、キドはうなずいた。
俺はこの言葉に救われて世界を嫌いにならないできた。
だからいまこうやって幸せにくらせていると、そう思っている。
けれどお姉ちゃんは。
「みんなで幸せになれないと思って世界を、嫌いになったのかもしれないっすね」
「……分からないよ。もうお姉ちゃんはいないから」
沈黙が流れた。
少し前まで間を持たせてくれる気のきいた存在だったBGMは、場違いな浮いたものになってしまっている。
まだあの頃は自分のことだけで手一杯で、助けてくれるお姉ちゃんのことを、注意してみたりしてくることはなかった。
お姉ちゃんだって、大変だっただろうに。
「でも俺、お姉ちゃんは幸せだったと思うっす。そう思いたいってのが、一番すけど。
みんなで幸せになるには死ぬしかないって、思ったんだと思うっす。お姉ちゃんが死んじゃったら、意味ないのにね」
「…………お姉ちゃんなら、ありえるかもしれないな」
緩慢な動きでキドは立ち上がった。
どこか遠くを見るような目をして、ゆるやかにふるふる首を振る。
「セト、」
「なんすか」
「バイト、終わるの何時だ?」
「ん―――あと二十分っすね」
壁の時計を見れば思ったより時間が経過していた。
カウンターにロリポップを置かれる。
二本、バーコードを映して代金を言えばキドはぴったりお金を出した。
「じゃあ一緒に帰ろう。帰りにお姉ちゃんのお墓に寄ろう。それまでは雑誌でも読んで待ってるよ」
「うん。俺も帰り支度、今からしとく」
やりとりにキドは特に何の反応もしなかったけれど、ふと目を離すと姿が見えなくなった。
姿を隠して立ち読みするのか、とちょっぴり羨ましく思いながらエプロンを片手でほどきやすい結び方に変えておく。
お姉ちゃんはもういないけど、あんな悲しい思いを、俺が誰かにさせないように俺は世界を嫌いにならないから。
きっと、みんなで幸せになれる未来を作るよ、お姉ちゃん。
そのためにまず、交代してくれる次の人が来るまでのあと二十分をしっかり働こう。
彼女についての見解
もう質より量でこれからはいこうと思った。
その割に量がないけれど。
コンビニでキドがチュッパチャップス(パイン味)を探す、だけではさすがに話が続かなくて困った。
セトがコンビニでバイトしてるならその時間、私は絶対にバイトに行くのに。