TOY

□鼓動
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「? 繋がねーの?」


「いや、その、これはっ」


慌てる声は恥ずかしくって、シンタローの顔が見られない。
じんわりとわずかに潤みはじめる目で床の木目を見ると、近づいてくる上靴。
ちゃんと如月と名前が書いてある。


「ほら、帰るぞ」


「うん…………」


彼は手を繋ぐことなんて何とも思っていないのだろう。
私は今、気持ちがあふれて仕方ないよ。
お前から手を出してきたくせに変な奴。
そう呟かれてしまえばその通りで、私は何も言えない。

たんたんたん、リズミカルに階段を下っていくと階下から、ありがとうございましたーと部活の終わる声。
いつの間にそんなに遅くになっていたんだろう。
時間が過ぎるのが、早くに感じる。
前方を行く彼は私より背が高いのだけれど、階段だから私の方が高くてちょっと優越感。
覗くうなじが、つむじが、可愛く見えてしまう理由は分からないけどついニヤけてしまう。
気持ち悪いなあ、今振り向かれたりしたら、絶対ひかれる。
自己分析しつつ眺めていると、彼の目が私に向けられて。
あ、摘んだ。
ぴしりと思わず動きが止まる。


「言いたいことあるなら言えよ」


「な、ない!嘘じゃなくて、本当にないよ!?」


自由のきく左手を駆使して弁明するけれど彼はいぶかしげに私を見るだけ。
申し訳なくなってきて視線を反らした。
落とす先に今度は握られたままの手が映る。
きゅっと少し強く、力がこめられた。
痛くはないけれど驚いてパッと顔を上げる。
と、唐突に引っ張られた。
ひゃあ!?間抜けな声が廊下と階段にやけに無様に大きく響く。


「し、シンタロー……?」


笑ったことを怒っているのだろうか。
恐る恐る顔を見上げる。
階段から滑るように彼の胸に飛び込む形となってしまった私は、思い切り彼に全身を預けてしまっていた。
支えてくれたことに、彼の胸にきゅんとしたけれどサアッと血の気が引く。
お、重かったというか重量をとても感じたに違いない。
だって半歩、後ろに下がったのが何よりも分かりやすい答え。


「お前の質問の回答、出た。こういうことだろ?」


「私の質問? さっきの、私がシンタローに何してほしいかっていう?」


「おう」


何てことのないような顔で、いつものように読めない目でうなずいた。
これが、答え?私にも分からない質問の答えがこれだなんて、でも私の望む答えは、これじゃないと思うんだけど。
シンタローが何をしたいのか分からなくて体勢を、遅ればせながら立て直して首をかしげる。


「要はお前、人恋しかったんだろ。だから俺にくっついてきたりして」


「…………そうなの、かなあ」


あきれたような目に映る私が私を見返した。
そうなのかも。
そんな気がしてきた。
そっか、私、人恋しかったのか。
私が分からないことでさえお見通しで答えを導き出せるなんて、やっぱりシンタローはスゴいな。
笑って見せると彼はしかし、不服そうに口を尖らせる。
ん?と思ったときにはすでに遅く、視界の端に彼の右腕が動いた。


「!」


再び密着する、ぜろセンチの距離にかあ、と血が昇る。
左耳がぴったりくっついて彼の鼓動が聞こえる。
とくん、とくん、とくん。
幾分か早いくらいの拍動が私の心拍ともう少しで重なりそうで、重ならない。


「元気出せ。お前が元気ないと調子狂うだろ」


「…………うん」


夕日に照らされる階段でのこの一時は数秒の刹那の出来事で、でも私には永遠ほどの十分すぎる価値ある時間。
忘れるなんてそんなこと、片時もなかった。
ああ、シンタローのことが好きだなあと自分の心の熱に真っ向から向かい合えた、最初のことだったから。


「ありがとう、シンタロー」


あなたの答えは、いつだって正しいよ。















この話ではこんななのにロスメモでアヤノの手をシンタローは振りほどくんだよなあと思うと、すごい(私一人が)楽しいです。
シンアヤの可能性は無限大。
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