TOY

□3センチ
2ページ/2ページ




キドは何を思ったのかちょっとばかし屈んで、僕を上目に見た。
え、何、ホントにどうしたの。
しばらく可愛さよりも恐怖を感じざるを得ない剣呑な目で見つめられたあげく、彼女は不服そうに呟く。


「せっかくお前のために小さくなってやったんだ、何か言え」


「ええ!?いや、まあ、確かにこの状況なら15cmくらい差があるかもしれないけど!僕が言いたいのはそういうことじゃなくて、」


それに小さいキドなんて違和感がある。
こんなにも身長だけだけれど差が生まれてしまったら、何だか怖いなと思った。
セトは、こんな気持ちなのだろうか。
考えたこともなかった。


「キドは僕を男扱いすることがあまりないからね。もう少し身長があったらまだ意識してもらえたかな、って思っただけだから」


すっと曲げられていた足が伸ばされる。
さらりと目の前を綺麗な髪が揺れた。
心底驚いたように僕を睨みながら、だけど照れたような狼狽をにじませる声色で思いが紡がれる。


「俺が……俺が意識してないとでも、思ってるのか」


「え、いつもキド、嘘、違うの?」


わなわなと肩を震わせたかと思うとくるりと背を向けられてしまう。
ああ、こんなことってあるのだろうか。
僕は笑った顔を張り付けながらもどうしていいのやら分からなくて、とりあえず彼女の背中に話し掛ける。


「ごめんってキド。ちょっとからかっただけ」


「意識してないのはどっちだ。いつまでもお姉ちゃん、お姉ちゃんって俺を意識していないのはお前の方だろ」


「姉ちゃんはそんなんじゃないから。キド、ね?」


困ったな、機嫌は簡単には変わらなさそう。
怒声は強い勢いだったが、尻すぼみ気味になり最後には囁くような声量になった。
静かな室内で時計の針の音が彼女の言葉を催促する。


「理想なんてどうだっていい。この今の身長差がベストで、それでいいだろ。俺は勝手にドキドキしているし」


「ありがとう、つぼみ」


じんわりと曖昧な暖かさが胸のうちに広がる。
プラスの感情で溢れそうで、彼女を背後から抱き締めると華奢なその体はぴくりと震えた。
可愛いなあ。好き、好きだよ、大好きだよ。
ぎゅうぎゅうと体を密着させて気持ちを少しでも伝えられたら、と思ったのだが実際どうなのだろう。
嘘つきの吐く言葉では信じてもらえないだろうから、せめて、気持ちは行動で。
僕の心音と体温の上がり具合で、僕のことも分かってくれないかな?
キドがこちらを振り返って僕を見る。
彼女の体勢は辛そうだったけれど、背伸びすれば無くなる身長差に、僕は笑って彼女のくちびるに口付けた。


















これと、キスしそうなほど近い!その距離3センチ!
みたいな話と2つ思い浮かんだけれどせっかく身長差が3センチの二人なんで身長差の話にしてみた。
そこはかと漂う「何かこれ違う」感が消せなかった。

まあカノだから、と誤魔化す。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ