TOY

□恋の予感
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階段を上がってすぐの部屋がパールの部屋。
それはオイラの家と同じような間取り。
遠慮ぎみにノックをすると扉の奥でパールは「なんだよ……」と不機嫌そうに絞り出してきた。
クッキー作ったから持ってきたんだけど、そう切り出すとしばしゴソゴソと物音がした。
入っていいぜ、そう告げられてからドアを開くと彼はベッドに寝転がり壁に顔を向けている。
オイラが来たのになあ、と思うけれどこれはオイラが思ってたよりパールが悲しんでる証なのかもしれない。


「どうしたの?」


「それがさ!聞いてくれよダイヤ!!」


恐る恐る声をかけると、元気よく跳ね起きたパールはベッドから身を乗りださん勢いで僕が逆に一歩退いてしまった。
心配してたんだけど、なんだ、パール元気じゃないか。
よかったなあ。
紙袋を渡しながら続きを促すと何かあるのかパールは彼の机の引き出しを開ける。
ベッドに座ったままで。
ぎしり、スプリンクの軋む音がやけに大きく聞こえたのはテレビがついていないからかもしれない。


「昨日俺がノモセに行ったのは知ってるよな?
俺が行った時ちょうど師匠に挑戦しに来てる人がいたんだけど、その人がカントー出身らしくて!」


「カントー地方かあ」


カントー地方といえば図鑑所有者の先輩がいる地方だ、それにあの有名なオーキド博士がいる。
他の地方の人に会うことはやっぱりあんまりないし、ジムに挑戦するということは結構な実力の持ち主なのだろう。
せっかくだし持ち物で何か交換しようって話になって、と言ったところでパールは口をつぐんだ。
手のひらの中の何かを数回かもてあそんで、空に二酸化炭素を増加させて、ためる。
前にパールは、お笑いでもための「間」が大事なんだからな!と言っていたがここでもやはり間は大切なのだろう。


「どんなもの交換した〜?」


「俺はどうせならやっぱりシンオウ独自のものがいいよなあと思って、もりのヨウカンをあげたんだ。
そうしたら!何をくれたと思う?」


「ん〜……分かんないや」


「“つきのいし”をくれたんだ。そこまではよかったけど、これ、どうやら“つきのいし”じゃないみたいなんだよな!」


あーもう、ショック!と叫んでがしがしパールは頭を掻いた。
どうして“つきのいし”なのだろう、と不意に出てきたアイテムに一瞬思考が止まったけれど、そうだ『おつきみやま』がある。
ピッピやピクシーが生息するとテレビで言っていた気がする。
それ故の“つきのいし”とはなかなか素敵だと思った。


「オイラも本物の“つきのいし”は見たことないけど、“つきのいし”じゃないってどうしてパールは言うの?」


尋ねると案外けろっとした様子でパールはクッキーを取り出してくわえてこたえる。
ちょっと行儀悪いけど、おいしいって笑顔になってくれた。
嬉しくってオイラもついつられて笑っちゃう。


「もらったら“つきのいし”、使いたくなったんだ。だから師匠と別れた後すぐにテンガンざんに行って」


「えっ」


お嬢様がいるところ。
今はただ“つきのいし”の話をしているだけでお嬢様は無関係なのだけれどパールの口からテンガンざんという言葉が出てきただけで、どくんと心臓が強く脈打った。
熱を持ったような拍動は全身に巡るようで何だか照れる。
お嬢様、元気かな。いま、何してるかな。
お嬢様も、おやつ食べてるかな。


「ピッピを捕まえて進化させようと思ったんだけど、なかなかピッピも捕まえられなくて。
というかそもそも見当たらなくて困った。そうしたら、そうだダイヤ、お嬢さんに会った」


「ええっ!?」


今度こそ大きな声をあげてしまうと、パールは心底おかしいと言うように笑った。
お嬢さんの話を持ち出しただけで慌てすぎだろ、と言われるけれど分からない。
そうなのかなあ。
そう言われてしまえば意識しすぎるほどにしているような、していないような。
答えに困って口は『へ』の字にさせたまま動かせない。
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