TOY

□視線
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(遥貴)


例えばそれは近くにいるだけで相手のことを意識してしまうだとか、気付くと相手のことばかりを考えてしまうだとか。
淡く綺麗なそんな感情をうっとりと夢見るように語る同級生を、私は冷めた目で見ているような奴だった。
だのに一体全体何の因果だろうか。
都合のいいときにだけ頼りにしていた神様からの嫌がらせ?
誰か一人に格別な感情を持ったことのない私は、いま、格闘している。


「貴音さんを見ていればすぐに分かりますよ。そんなこと言ったって遥さんのこと大好きじゃないですか」


「だ、か、ら、違うって!これはそういうんじゃない。うん。そもそも恋だなんだって私の柄じゃないし」


「柄とかは関係ないと思うんですけど……貴音さん、いま、高校生なんですよ?」


マフラーをたなびかせて例のごとく屋上で、珍しくアヤノちゃんは私相手に声を張る。
何でこんな話になっちゃったんだっけと過去を顧みるも、実のない会話のたどり着く先はいつだって突飛な場所だ。
それにしたって遥の愚痴なんか毎日のようにしているのにどうしてここに行き着いた。
アヤノちゃんに隠れて息をつくと彼女はニコニコ可愛らしく笑いながら続ける。


「花も恥じらう女子高生なんです。柄でも柄じゃなくても、恋のひとつやふたつ、するものです!」


「アヤノちゃんは恋、してるの?」


胸を反らすアヤノちゃんに意地悪をする。
そんなことはそれこそ見ていれば分かるのだけれど。
彼女は明らかにあのムカつく奴に恋をしている。


「……それは内緒ですけど」


ぼん!と音をたてるように真っ赤になったかと思うと少しもじもじしながらアヤノちゃんは目をそらしてごにょごにょ言う。
それはともかく、なんて話題転換の言葉がすぐさま彼女の口から出た。
はぐらかされてしまったようだ。
でも、恥ずかしがる彼女は水素爆発でも起こしたような反応を見せてくれたからよしとしよう。
後輩をいじめることは私とて本意ではない。


「貴音さん、遥さんの手がちょっと触っただけなんですよね。大嫌い、なんて嘘は言っちゃダメです」


「ダメですって言ったって……」


またくちびるをとがらせてしまう。
確かに手が触れただけといえばそれだけなのだけれど、ヤツの手はそのとき砂糖まみれでべったべただったのだから嫌がってもいいじゃないか。
何で砂糖にまみれているのかというと、おかしなことなど何もなく、普通にメロンパンやらクッキーやらを食べた直後だったからだ。


「でも今は、大嫌いって言ったことを悔やんでいるんですよね?」


そんなことは一言だって言っていないのに。
ムカついて、飛び出した私の悪い癖。
つい口をついてしまう汚い言葉たち。


「…………うん」


アヤノちゃんにそう、かろうじて彼女が聞き取れるであろうボリュームで返せば彼女はふんわりと柔らかく笑う。
後輩だけどそれは、無邪気さだけではなく大人びた慈愛に満ちた何かが感ぜられて、私は視線を泳がせた。
優しくされることには、慣れていない。


「だったら謝らないといけないですよ。ちゃんと言葉にしないと、誰にも気持ちは伝わりません」


「そう、だね。ありがと」


タイミングを見計らって今日、できたら謝ろう。
遥のことだから忘れてくれているかもしれないけれど、忘れたままにしておいてほしいけど、でもそれはズルだから。
憂いがなくなると気分も晴れる。
少しだけ、今なら不器用なりにも上手く笑える気がして、アヤノちゃんに笑顔を向けた。
その調子です、そう言ってくれたからきっと、この笑顔だって及第点がもらえてるはず。

がちゃりと屋上のドアが開いて遥とあいつが帰ってきたから、慌てて笑顔は捨てて顔を背けた。
そのまま「遅い!」と怒ってしまうのは可愛くない態度だって、頭では分かってる……んだけど、なあ。
上手くいかないものだ。
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