TOY

□視線
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「私、最低だ。最悪だ。ごめん、本当にごめん」


泣くのはずるいと思うのに涙が止まらなくって、手でぬぐってもぬぐっても際限なくあふれでる。
ごめんと泣きじゃくったら遥は許すしかないじゃないか。
私は、ずるい。
こんなのってあんまりだ。

ぐずぐずと泣き続ける私に遥は、何を思っただろう。
肩にぽん、と優しく片手がのせられた。
汗で冷えた体に温かさが染み入るようで、ああ、温かい。


「泣かないで」


「……ごめん、ホントごめん」


顔を上げると困ったように眉毛を下げた遥がいた。
そりゃあ困るよね、一生懸命に顔をしかめてみたりして涙をこらえる。


「謝ってくれてありがとう。僕ね、昨日のことは僕も悪かったなって思ってたから、貴音は謝らなくてもいいんだよ」


笑った遥はいつもどおりで拍子抜けしてしまった。
へ、と情けない声が漏れる。
彼は、砂糖まみれのあんな手で触られたらそりゃ嫌だもんね、僕こそごめん、とへにゃりと笑う。
でも、と私が取り繕うと口を開くと彼も表情を引き締めた。
とはいっても、小さい子を叱るときのような、ちょっとお兄さんぶったような子供じみた表情だったのだけれど。


「でも、大嫌いはやっぱり堪えたから、もう言わないでほしいな」


「うう……」


目を見られて言われると視線を泳がせてしまうのはもう、さがのようなもので。
もごもごと口の中で弁解を言ってみるけれど、そのことを謝るために私は頭を下げたのだ。
これじゃあ何も伝わってない。
斜め下を見る私を横目に、遥は帰ろっか、と先に歩き出す。
ちょっと、待ってってば、ねえ。


「あっ、」


伸ばした指先が彼のそれに触れた。
昨日の今日では意識しないはずもなく、ぶらんととっさにひっこめた手が重力にしたがって落ちる。
顔が見れないままで、でも、何か言わなくては。


「……大嫌いとか、その、売り言葉に買い言葉と一緒のノリっていうか。
遥は何も言ってないからこの喩えはおかしいんだけど、その、とにかく私が、言い過ぎちゃっただけで」


ぎゅっと目をつむった。
手も握りしめて、逃げちゃダメだ、ダメだ、心の中で思って。
念じて、意識して。
真正面から彼の瞳を見た。
綺麗な黒色に真っ赤な私。


「嫌いになるなんてあり得ないから」


「た、貴音……っ!?」


「そ、そういうことだから!ごめん!」


恥ずかしいことを言った自覚はある。
鈍感な遥もこのくらいストレートな言葉だとさすがに分かるらしく目を白黒させていた。
怒鳴るようにまとめると、少しだけ嬉しそうな「うん」という返事が私だけに向けられる。

隣を歩いて帰る道中、ずっと手が触れないかどうか気が気じゃなかったのはここだけの話。
きっと遥は気付いてないでしょう?
でも、また触れてしまったら私の心臓はいよいよ破裂してしまうと思う。
もう、こっちは気が気じゃないんだからね?







なんだこれ……迷走してわけわからなくなった。
ノープランってダメだなと思った。
遥貴は分かりやすくラブコメしてるイメージがある。
分かりやすいラブコメって何だ。
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