TOY

□おはよう
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ベッドに横になったままごろごろして、セトは私の手を握った。
大きくなったなあ、前は私の方がおっきかったのに。


「おはよ。マリーは早起きさんっすね」


「えへへ。今日はセトがお寝坊さんだね」


「だってまだ眠いんすよ」


まどろみの中を漂う綺麗なレモン色の彼の瞳ははちみつみたいにとろけて見える。
おふとんの中にゆるゆると引きずり込まれてしまえば引き返せなくて、ぎゅっと彼の腕の中に閉じ込められたら幸せでいっぱいになった。
あったかくて、大好きでいっぱいで、もう、なあんにもいらないや。


「……って、セト!ダメだってば!起きて!」


起きたはずなのに私まで眠たいような気がして、目を一度つむってしまったけれど味噌汁の香りに意識が覚醒した。
キドと約束したんだもん!
起きて、起きなきゃいけないんだよ、セト!
必死に肩を揺するとセトは少しむくれて、しょうがないっすね、と呟いて起き上がる。
ようやっと起きてくれたのが嬉しくて、ベッドから抜け出して必要ないけど名前を呼んだ。


「セト」


「なんすか?」


「ううん、何でもない。よく眠れた?」


きょとんとしたような顔になったセトは、変なマリー、と言ってクスクス笑う。
変じゃないもん!ひどいなあ!
恥ずかしくなって頬を膨らませると、鏡に子供みたいに怒る自分が映ってますます頬に血が昇る。
いまさら止められなくて怒ったままでいると、はいはいごめん、軽くあしらわれた。
昔はあんなに何回もちゃんと謝ってくれたのに!
何だかずるいなあ、そう思ったらセトが着替えたそうにしていたので、慌てて部屋を出た。


「キド、セト起こしてきたよ」


「そうか。ありがとな」


キドは机の上にもう料理を並べてくれていた。
焼けた鮭がいいにおい。
カノを起こしてくるからちょっと待っててくれ、と言われたので一人で席について足をぶらぶらさせて待つ。
私のお茶碗は淡いピンク、キドのは淡い紫で、カノが黒でセトは緑。
それぞれほかほか湯気が出ていて、みんな早く来てくれないかなあ。
いつもより早く起きたせいかお腹がくう、と主張した。

あ、そうだ、誰もいないし。
きょろきょろと辺りを見渡して誰もいないことを確認して卵焼きの前に向き直り、拳を握る。
これはつまみ食いのチャンスだ!


「えっと、端っこはバレちゃうかもしれないからダメで、だから、真ん中、だっけ」


前にカノが教えてくれたことを思い出しながら指差し確認。
いいかな、よし、食べちゃえ!
箸でつかまえてぱくっ。
口の中に入れると、キドの卵焼きは本当に美味しくって幸せ。
もぐもぐしてから、足音が聞こえてきて慌ててお茶を飲んで飲み下す。
ちょっともったいない気がした。


「キドは……カノを起こしに行ったんすね。ごめんねマリー、待たせちゃって」


来たのはセトで、もう全然眠たくなんて無さそうな彼は笑って私の向かいに座る。
視線を落として、その先にある卵焼きを見つけると彼はいたずらっ子のように私に笑顔を向けた。


「ちゃんと食べた分だけ寄せとかないとバレバレっす。キドに怒られちゃうかもしれないっすよ」


「……し、知らないもん!」


さとされながら食べていないと言う私は強情かな。
視線をそらしてから、そういえばまだ今日はセトに言っていなかったなと不意に思い出して、けれど見栄を張った手前、言いづらくて。
もじもじしてしまってから、その、と切り出した。


「おはよう、セト。今日も一日、頑張ってね」


「もちろん。今日も頑張ってくるっす」


はにかむ彼はまたそう言ってくれるから、私はセトがバイトでいなくても、まだいいかなと思えてしまうのだった。












起こして「おはよう」だけで終わりではさすがに短すぎると思ったので一生懸命伸ばしました。
そのせいで少し違和感がありますが、そこは、心の目でカバー(何のフォローにもなってない)。

セトマリのプラトニックさは最強だよね!
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