TOY
□ほしよみ
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(ブルーとシルバー)
お星さまがきらきら綺麗。
姉さんはそんな綺麗な星空を見上げて、俺にだけ聞こえるように小さな声でささやいた。
「今日はね、大好きな人に一年に一度だけ会うことが許されている日なのよ」
「大好きなのに、今日だけ?」
「そう。悪いことをしちゃったから」
「俺たちみたいに?」
同じように質問したつもりだったけれど、今度の質問には姉さんは曖昧に寂しそうに笑うだけで、特にこれといった返答はしてくれなかった。
仮面の子供たち。
かつてそう呼ばれる集団に属していた俺たちは、悪いことをたくさんした。
過去だけじゃない、今も、まだしている。
でも今しているのは生きていく上で仕方のないことで、こうでもしないとまだ幼い俺たちが生きていくことは、できない。
「俺たちとその人が一緒の理由で会えないなら、だから俺たちも大好きな人に、お母さんやお父さんに会えないのかなって思ったんだ」
空の上のお星さま。
どんないきさつがあったか知らないけれど、どんな悪いことをしたのだろう。
それは、人のポケモンを奪ったり、傷つけたり、殺したりすること?
人のものをとったり、正しくない方法で稼いだお金で物を買ったりすること?
もしそうなら、俺たちとそのまんま一緒なのに。
俺たちも一年に一回だけでも、お母さんやお父さんに会えるかもしれないのに。
俺には記憶にもない二人だけど、姉さんは自分のお母さんやお父さんを覚えているんだって。
俺が余計なことを言ったせいで、姉さんは思い出して、悲しい思いをしているようだった。
俺のせいだ。
姉さんの目が涙で闇の中を光って見える。
空と同じ、星があるみたいで綺麗だと思った。
「……なんて、言ってみただけ。ごめんね、姉さん」
「ううん、いいの。そうよね、シルバーも、会いたいわよね」
「一年に一回だけより、俺は毎日姉さんと一緒にいたい」
恥ずかしかったけれど、彼女にだけはいなくなってほしくなかったから。
抱きつくと、俺の身長では姉さんの腰に抱きつくことしかできなかった。
不格好でカッコ悪い。
「そうね、私もよ。ずっと一緒にいようね、シルバー」
驚いたような姉さんだったけれど、彼女は俺の頭を優しく撫でて、そう言ってくれた。
覚えもないけど、その手をお母さんみたいだと思った。
あの日から何年経ったことだろう。
七夕を迎えるのは今日でもう何回目だろうか。
俺の隣に、姉さんはいない。
ずっと一緒と言ったけれど、そんなこと本当の家族でもない俺たちにはしょせん不可能なものだ。
頼りない口約束。それだけでもいいと、思えるけれど。
一人きりでぼんやりと空を仰ぐが、今日はあいにくの曇り空が広がっている。
あの日見ることのできた星々の会瀬を垣間見ることはできない。
悪いことをしたら当然の報いを受ける、それが理だ。
そうでなければ世の中は不条理で満ちてしまう。
あってはならないことだ。当然の報い。
俺は姉さんの幸せを願って、彼女が幸せならば俺自身はどうなろうとも構わないと思った、願った。
姉さんは家族と、恋人と、きっと今も、笑い合っていることだろう。そうであってほしい。
ひとりぼっちで曇天の下に座るのは居心地が悪いけれど、後悔はなかった。
「……できることなら、晴れてほしかったな」
空につぶやいてその場を立ち去ろうと立ち上がると、背中にぎゅっと抱きつかれた。
体格から、温かさから、行動から、その優しさから誰かなんてのはすぐに分かる。
彼女が回した腕をどかしてくれるのを待って、向き直った。
「どうしたの、姉さん」
「あら、どうしたのなんてずいぶんな挨拶ね。今日だけは絶対にあんたに会いたかったのよ。ここにいてよかったわ」
姉さんは読めない笑みを浮かべるとふふふ、と声をもらした。
小さく、ここにいるような気もしてたんだけどね、と付け足す。
何となく気恥ずかしくなって視線をそらした。
「あーあ。せっかくの七夕なのに星が見られないわね、これじゃああんまりだわ。あの時はあんなに綺麗に見えたのに」
「あの時?」
「そ。シルバーがまだ七夕を知らなかった時」
姉さんもあの日のことを覚えていたんだ。
嬉しいような、恥ずかしいような。
曖昧な感情に妨げられて口を開けずにいると、姉さんはごろんと唐突に草の上に横になった。
大の字になる様は小さな頃のようで、だけれど見てくれはもう大人顔負けだから困る。
バトルの実力もだけれど。
「服が汚れるよ?」
「いいわよ、今はもういつだって洗濯機が使えるんだから。ほら、シルバーもねっころがってみてよ」
「え?」
嫌だ、と返そうとしたときにはすでに遅く。
回転する曇り空、ふてくされながら手をついて上半身を起こすと、姉さんも寝転がったままにいたずらっ子のような笑顔を見せた。