TOY
□ほしよみ
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「星、見えないね」
「そうね。でも、雲の上はお天気も何も関係ないでしょう?
大切な人との久しぶりの再会を、誰にも邪魔されたくないから雲で目隠ししてるのかもしれないじゃない」
空を見上げたままに彼女は言う。
きらきら輝く夕闇色の瞳は星が映っているようで、俺だけが空を見ることができていないのだろうかと刹那、思った。
俺が顔ごと向けているのにも気付いていない風に姉さんは一心に、空を見つめていた。
「姉さんってロマンチストだよね……」
「リアリストであるよりロマンチストである方が可愛らしくていいと思わないかしら?」
「そういうこと計算してやってる時点でダメだと思うけどね」
「嫌ね、計算なんかしてないわよ」
からからと彼女は笑う。
姉さんの考えていることはいつまでたっても俺には分からない。
姉さんは俺のこと、何でもお見通しなのに。
「ねえシルバー、」
不意に姉さんはこちらに顔を向けた。
自然と向き合う形になって、なあにと尋ねると姉さんはふわりと笑みを作って口を開いた。
「ずっと一緒。それを嘘にするつもりはないわ。私たちは本物よりかたい絆で結ばれた大事な兄弟。
私だって、あんたに幸せになってほしいの」
「……俺は幸せだよ?」
「そう言ってくれると嬉しいけど」
姉さんは困ったような寂しいような笑顔を浮かべた。
どこか悩ましげな表情で続ける。
「シルバーも幸せになって、いいんだよ?私だけが幸せになんて、なれないよ」
大人びた声じゃない、幼いあの日と同じ、姉さんの声は年相応の舌足らずなものだった。
「俺は姉さんが幸せなら、それでいいのに」
戸惑いながらも返すと、姉さんはよりいっそうまゆげを下げた。
上手くいかない。
「じゃあ私と、約束しましょう。それくらいなら、いいでしょう?」
「約束?」
そう、約束。
優しく笑う姉さんは俺の手のひらをそっと包み込んでくれた。
温かくて、安心する。
「私はいつもあんたと一緒よ。少なくとも心意気は。
何があっても絶対に今日だけは、この日だけは忙しくてもあんたに会いに来るわ。約束の証明をするために」
ね、約束だから。
姉さんはそう言うと手は繋いだままに、また空へと視線を戻した。
今日は一年に一度、悪いことをした人でも大好きな人に会うことが許される日。
俺もいつか許されるのだろうかと、ぼんやりと思った。
繋いだ手の温かさが昔と変わらなさすぎて、涙があふれそうだった。
流したら止められそうもないので、せいいっぱいに強がって止めたけれど。
分厚い雲の上では今日、きっと今も誰かと誰かは幸せになっている。
ほしよみ
(あのお星さまが私で、あのお星さまがあんたね。ずっと、ずっと一緒だよ!)
青銀姉弟が書きたくなった。
二人の関係はとてもいいですよね……胸熱ですよね……!
二人には手を繋いで星を見てほしい。