TOY

□不意打ち
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(レイエ)


さわさわと青色の草たちが風に揺られて大合唱。
綺麗な葉音に耳を澄ませて、閉じた目をゆっくり開くと肩に乗ったままのチュチュと目が合った。
彼女の耳に付いた花も風にひらひら揺れている。


「風が気持ちいいね」


あごの下を撫でてあげながら言うと、チュチュは気持ち良さそうに目を細めた。
揺れるカーテンが僕の髪を撫でる。
台風一過後だからか以前よりかは夏めいてきたが、まだ過ごしやすくていい。
しばらくそうしてボーッとしていると、不意に、何か思い付いたのかチュチュは耳をぴくりと動かすとピョンと床に降り立った。


「ん?どうした?」


僕の言葉に返事もせず「付いてきて」と言うように一瞬だけ僕と目を合わせる。
彼女の気持ちをあれだけの間に読み取ることは不可能で、腰をあげた。
チュチュは慣れた様子で扉を開けると森の中に入っていく。
また風が吹いて、部屋にいたときには心地よかったそれにさっき慌てて被った麦わら帽子が脱げそうになって急いで手で押さえた。
大丈夫、チュチュの姿もちゃんと見失っていない。
しかし、どこに向かうつもりでいつまで走るのだろう?
獣道を駆けると葉が足首を掠めた。
くすぐったくて、これだから獣道は辛い。


「わ、トランセルがいっぱい!」


通ったことのない道の頭上を見上げれば、僕をを見つめ返す無数の目。
びっくりしながらもチュチュをちゃんと追う。
早く早く、と急かすようにすでに数メートル先で彼女は僕を待っている。


「どこ行くつもりな、の……!?」


息もきれぎれで、絶え絶えに尋ねるとしびれを切らしたのかチュチュは僕の方に走ってきてくれた。
……まではよかったのだけれど、飛び付いてきて「でんこうせっか」さながらの威力で僕を押すから、バランスを崩してしまった。


「う、あ、わあっ!!」


手を回して何かにすがろうとして、背中から斜面にダイブしないようかろうじてとれていた均衡が、崩れる。
成す術もなく倒れていく体に、スローモーションのようにゆっくり見える森の景色に、僕の目に涙がたまる。
痛いだろうな、想定して目を閉じるけれど、あれ、直前の森の景色はどこかで見たことがあるような。


「っ!」


「わ!?」


ふわりと、体が浮いたと思ったら暗い森から明るい日差しの下に移動したのが、目を閉じた状態でも分かった。
驚いたような誰か他の人の声、支えられる僕。
恐れていたひどい痛みには襲われなくて、ちょっと待って、今ってどういう状況?
ゆっくりゆっくり目を開くと、眩しさに何も見えなかった。
僕の顔を誰かが覗き込んで影ができる。
あ、ちょびっと楽になった。
光に慣れてきた目で見ると、映るのは青い空、どこか遠くに見える木の葉、それから僕の目を心配そうに見ている。


「れっ、レッドさん!?」


がばり、起き上がるとそういえばチュチュがいなかった。
視線の先でピカとじゃれあっていて、何だかなあと少し複雑な気分になる。


「大丈夫か?」


急に飛び出してくるからポケモンかと思った、なんて明るく笑うレッドさんは僕に右手を差し出してくれた。
尻餅をついた体勢の僕は恥ずかしくって、失礼だけどうつむいてその手をとる。
力強く持ち上げてもらって、立った僕はレッドさんにとりあえず頭を下げた。


「あ、ありがとうございました!チュチュの後に付いて行ったら、やっぱりチュチュ、ピカに会いたかったみたいで」


「ああ、それで急にあんなところから出てきたのか」


トキワシティの公道で、レッドさんは少し上を見やった。
木々の繁るそこはどうやら、トキワの森と繋がっていたようだ。
全然気付かなかった。
頭を垂れたままにしていると、ふわりと優しく手が乗せられた。
驚いてしまって息が詰まる。
嬉しくて、このままでずっといられたらいいな、なんて、不可能なことを願ってしまったり。
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