TOY
□視線
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(ヒビモモ)
誰かの視線を怖いと思うようになったのは、いつからだろう。
一番最初、私は視線の先にいることに憧れていた。
お兄ちゃんのように、誰からも認められて褒められて、あんな風になりたいと思った。
しかしどうだろう、何かの度にもてはやされていつしか私は、誰かの努力すら踏みにじっていた。
そんな気は全くなかったのに。
そこまでして私は誰からも見られたいわけではなかった。
あなたなんて大嫌いと言われ、憎まれてまで。
私はここに、立ちたいわけじゃなかったのだ。
もうそんな過ぎた話、したってしかたのないものなのだけれど。
コントロールができるようになった、とはいってもなかなかにむつかしい。
これまでできなかったことをこなすことは、それなりに時間がかかる。
そんなわけで私は、ついさっきまでできていたコントロールができなくなってしまってあたふたと逃げ惑っていた。
焦れば焦るほどにこの能力はど壺にはまってしまうのに。
落ち着いて、冷静になって、と教わったことを思い出そうとするも追い掛けられながらでは無謀な挑戦となってしまう。
誰か助けて!
すがるような気持ちで電話帳の振り分けた、メカクシ団のフォルダをひらいてコールする。
誰にかけているかもわからないけれど、きっとみんななら助けてくれる。
彼らには妙な安心感があった。
だってみんな、私なんかよりもよっぽどしっかりしている人達だから。
がちゃり、相手が通話に出た音がした。
よかった、一気に強張ってしまった表情が和らぐのを感じた。
「もしもし!?如月です、私いま、目の力が上手くコントロールできなくなっちゃって、追いかけられてしまっていて、あの、お願いです助けてください!」
『……え、何してるのおばさん?イタ電?』
「ひっ、ヒビヤくん!?」
まさか彼に掛かったとは思わなかったから驚いた。
しかし彼は「雨宮」くんだから、五十音順的に彼が一番で何もおかしいことはない。
イタ電なんかじゃないよ!ととりあえず誤解を解こうと前おいてからもう一度説明すると、じゃあおばさんどこにいるの?と問われた。
辺りを見渡す。
「わ、分かんない!」
『はあ?そんなんじゃ見付けようがないじゃん!』
「そんなこと言ったって……」
自分でも息をのみそうになるほど、しおらしい声が出た。
なんだこれ、そんなに私は、誰かに助けてもらいたかったのだろうか。
確かに下手に能力のオンオフを知ってからはこんなことはなかったし、追いかけられるのも久々だったのだけれども。
私は、ヒビヤくんに、助けられたい?
『しょうがないなあ。どうにかするから、もうちょっと頑張って』
「! う、うんっ」
彼の言葉に我にかえった。
しかしまた、案外頼もしいヒビヤくんの声に私はかなり安心してしまっている。
何でだろう、もう大丈夫だと完全に気を緩めてしまう。
彼は年下で生意気で、負けず嫌いでストーカー予備軍で不適な、子なのに。
どうしてだろう。
「あ、」
団長さんに頼めばよかったんだと気づいたけれどもう遅い。
きっとヒビヤくんがみんなに伝えてくれている頃だろう。
申し訳ないなと思う反面、彼が早く来てくれたらなと思った。
彼がどうするのか方法は全く分からないけれど、それもちょっと楽しみなんだ。
そんなことって、とてもじゃないけど君に言えないけどね。