TOY

□首の上に吊るされた星と
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少し先程のことでためらいが生じるが、マウスに右手を重ねてカーソルを移動させる。
珍しくもない平凡な、主婦たちのためワイドショーに晒されるような事件をぼんやりと眺めた。
世間はみんな馬鹿ばっかりかと思うと心が、感情が荒廃していくようだと思った。
そんなこともう、何度だって思っているのだけれど。
一通り暇潰しの巡回を終えて適当なサイトにアクセスする。
俺と同じように堕落した生活を送るものがうようよ集まるそこは、自分を他人より少しでも高く評価してもらえるよう必死な掲示板。
見ていて最初の方こそ馬鹿馬鹿しいと思ったが、今では俺自身も参加しようか、などと考えてしまっているから笑えてくる。
閉じ籠っているのは自分の意思なのに、結局人は誰かに自分を見てもらいたいのか。
そんなことをして時間を空費していくと、検索エンジンのトップにニュースが更新された。
夕方のニュース、もうそんな時間になったのか。
つけていたヘッドフォンをはずしてPCをスリープ状態にする。
椅子を回転させて眉間を揉むと、疲れた目を少しだけ痛いと今になって感じた。


「お兄ちゃん、夕飯、ここにおいておくね」


唐突に妹のためらいがちな声がした。
扉越しに聞こえる妹の声は、少しばかり震えている。
返事を返さないでいると、朝になったら下げるから、絶対、食べてね、と請うように続けられた。
ぱたぱたと足音が聞こえて、隣の扉が開いて妹が自室にこもるのが分かった。
そう言われても、もう俺は何も感じない。
することはなくなった、一日は過ぎ去った。
となれば、あとは目を閉じて眠るだけ。
また朝を迎えて、同じように停滞した日々を送るだけだ。



ベッドに移動し、ごろりと寝転がって天井を眺める。
長らく外に出ていないが、この天井の、屋根の上には今宵も星が瞬いているのだろうか。
そういえば、死んだ人は星になるんだと小さい頃は信じていた。
勝手に適当な星を指して「父さんはあの星になって見守ってくれてるんだ」と解釈したっけ。
だとしたら「あいつ」も星に、なったのだろうか。


「馬鹿馬鹿しいな」


生きていることも、考えることも、俺自身も。
もう死んでしまおうか。ここからいなくなってしまおうか。
考えると、もっと早くにこうしていればよかったなと思った。
引き出しからハサミを取り出して、握る。
持ち手が赤色だったことに、少しだけ口角が上がる。
赤色が好きだと言った「あいつ」が赤を好きな理由は、ヒーローの色だから、だったけれど。
手を伸ばすと、見えてすらいない夜空の星に触れられそうな気がした。


「……そうだ、星も」


喉元に向けてハサミを振り下ろした。
頸動脈が丸い刃物でギザギザに傷つく。
痛い、痛い。
目の前に星がとんだ。さっき思った通りの、プラネタリウムのような星の海に溺れる。
息が、苦しくて。
感覚が冷えて無くなっていく中に星だけが確かにある。


「おれの、せいなのか?」


頭上に見えたはずの星は、俺の血のせいなのかさだかではないが、濁った赤色に染まっていた。
「あいつ」が死んだのも、「あいつ」自身が言ったように、俺のせいなのか。
俺のせいじゃないなら、あの星と俺はお揃いだ。
お揃いの赤色だ。
「あいつ」も同じ、お揃いだ。


「ごめん、な……あ、やの…………」


「あいつ」の死は俺のせい以外の、何でもないだろうけれど。
体が重い。疲れた、もう、目を閉じよう。
脳裏に残ったのは赤い星だけだった。
俺の体のすべてが動きを止めても、まだ星は変わらずに輝き続けた。
いつまでも、変わらず。


 首の上に吊るされた星と














お題は亡霊様よりお借りしました。
後半からの意味不明すぎてやばいですね。すみません。
赤い星って蠍座にあった気がするんですけど……違ったかな……?あれ?
暗いシンタローを書くのはとても楽しいです。
最後投げやりになっちゃったけれども。
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