TOY

□寸止め
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(グリブル)



「これはまた……大変みたいね…………」


グリーンの現住所である、ジム付近にあるトキワシティ内のアパートの一室に足を踏み入れるのは週一回に決めている。
それ以上行っても掃除のしがいはないし、そう頻繁に行っては私が彼本人に会いたくなってしまうから、というのが主な要因だ。
そんなわけで一週間ぶりに訪れた部屋は、しかしいつもとは違って雑然としていた。
よっぽど忙しいのだろう、シンクにはインスタント食品の空になった容器が重ねられて置いてあり、洗濯物は洗われていないままに放置されている。
ゴミ箱もいっぱいいっぱいで、ゴミ出しもできていないのだろう。
これはやりがいがある。


「さあて、頑張っちゃおうかしら」


腕捲りをしながら、とりあえず洗濯機を操作しながらつぶやく。
こういうのって健気な彼女っぽい気がして一度やってみたかったのだ。
帰ってきたらびっくりしてくれるように、美味しい夕飯も作っちゃおうかしら。
カップラーメンばかりじゃ栄養も片寄っちゃうだろうしと言い分けしながら洗剤を投入。
ごうんごうんと回り始めた洗濯物に見守られながら、私は作業を開始させた。







「ふう、こんな感じかしら」


ある程度片付け終わった頃には、しかしまだ夕方だった。
家主が帰宅するまではまだだいぶん時間にゆとりがある。
望み薄だけれどとりあえず冷蔵庫を覗いてみたところ、案の定中身はカラカラのりんごだけだった。
なぜりんごをここまで放置させることに成功したのかむしろ疑問が残る。
開けた窓もぜんぶ閉めて、今度は買い物袋を持って家のドアを閉じた。
隣家からいいにおいがして、くうとお腹がなる。
何を作ろうかしら、定番だけどカレーとか?それともハンバーグ?


「……あ、そうだ」


これもまた定番だけれど、必要なものを頭の中でリストアップしながら献立を考える。
これこそ彼女が作った感があるんじゃないかしら。
それにお手頃だし。そんなことを考えながら買い物をする。
りんごの二の舞にならないようになるべく日持ちするものを選びながら買う。
しかし卵ばかりはしかたないけれど。
でも卵なら万能だし大丈夫だと信じてる……。

買い物を終えて部屋に帰ると、赤色の綺麗な夕陽が窓から差し込んできて別世界のようだった。
どこか特別な気がして、前にも一緒に彼と夕日を見たことがあったっけ、なんて恥ずかしいことを思い出す。
じゃーこじゃーこと米をといで炊飯器にセット。
スイッチを押せばあとはお利口な炊飯器が美味しいご飯を炊いてくれる。
今回ばかりはパサパサの混ぜやすいバラバラにしやすいものが炊けてほしいのだけれど。


「ケチャップも、うん、よし。そうだ、夕飯作って待ってるわねってポケギアで知らせておこうかしら」


コンビニ袋を提げたあいつと対面してしまったらと考えると、勝手にやり始めたことながらムッとしてしまう。
ぴ、ぴと料理の合間に操作して文章を送る。
炊けたご飯を大きめのフライパンで軽く切るように混ぜながら焼く。
自分で編み出した方法ではなく、先日ママに教えてもらった方法で作った。
家庭の味、ってやつ。
こっちの方が美味しくて懐かしい味がするから。
私の料理法だと調味料も足りないことがあったから、どうしてもどこかしら欠けた味になってしまうのだ。


「……懐かしいわね、それも」


シルバーと二人だけで囲んだ、幼い日の夕食。
盗みが成功した日はそれはそれは豪華な食事ができて、でも翌日はひもじいものにしかならなくて。
最初の頃は卵を掛けただけでオムライスだなんていったりもしたっけ。
今度シルバーにもちゃんとしたオムライスを作ってあげよう。
考えながら作っていたら出来上がった。
時刻はまだまだ余裕がある。食べる前に卵は焼いた方が美味しいから、ひとまず火を切って台所を離れた。
ソファーに座るとちょうど窓から入る風が当たって心地いい。
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