TOY

□寸止め
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美味しそうなにおいがする。
帰る家に灯りがともっているというのはなかなかにありがたいことで、自然と光を見てペースが速まった。
あいつがハートマーク付きで送ってきた内容はこれまで送られてきたことのないものだった。
夕飯を作って待ってるから寄り道しないで帰ってきなさいね、なんて母さんでもないのに。
どうしてこんなにも俺宛のものだからというだけで、嬉しくなってしまうのだろう。
俺もつくづく単純なやつなのだなあと痛感する。
レッドのことをからかえないわけだ。


「…………ただいま」


普段は誰に言うわけでもないそれだけれど、今日はあいつがあるのだ。
変に意識してぎこちない声が出てしまった。
まったく、情けない。
鍵を取り出さなくとも開いた扉に、謎の感動を覚えながら靴を脱いで部屋に上がると、煌々と照らされた部屋の中にエプロンをつけたままのブルーがいた。
まだ気づいていないようで、テレビに視線を向けている。


「あら?」


かちゃり、摂理に従って扉が閉まると、その音でやっと違和感を覚えたらしくブルーはくるりと振り返った。
長い髪がふわりと揺れてなびく。


「おかえりなさい」


軽く笑いながら言われたそれは優しい声色で思わず見惚れてしまう。
いや、聞き惚れるべきなのかもしれないからこれではいいわけにすぎないのかもしれないが。
彼女は台所に立つとフライパンを火にかけた。


「お風呂とか他に選択肢をあげた方がいいのかもしれないけど、私もお腹が減っちゃったのよ。
待っててあげたんだからそのくらいのワガママは許してよね」


わざとらしく頬を膨らませる彼女の言葉に驚く。
先に食べてくれてよかったのにと言うと、それじゃまたグリーンはひとりぼっちで食べなきゃいけなくなるでしょう。
そんなの悲しいわ、と笑った。
今から作るなら俺も手伝おうか。
席に座らされたが椅子を引くと、彼女は振り返って顔だけで示す。


「あと卵を焼くだけだから大丈夫。
そうね、手持ち無沙汰ならよかったら、コップとお茶をテーブルに出してもらってもいいかしら?」


「ああ」


そのくらいでいいなら、いくらでも。
冷蔵庫からペットボトルに入ったお茶を出す。
何もなかったはずの中には食材が入っていて頬が緩む。
頼んでいないのだから買ってこなくたってよかったのに。
俺のために何かしてくれるのはまだ照れる。
嬉しくもあるのだが。
こぽこぽとコップに茶を注ぐと丁度ブルーは皿を持ってきて俺の方に向けた。


「どうぞ、召し上がれ」


「いただきます」


差し出されたスプーンを手にして、そうしてからメインディッシュに視線を向けて。
手が止まるのは当然のことなんじゃないだろうか。
とろとろとした美味しそうな卵の上に、ケチャップで書かれた文字を追う。
むつかしいことは書いていないのだし、読むのにそんなに時間がかかるはずもないのだがかなりの時間をかけなければ読めない気がした。


「ふふ、びっくりした?」


「……そりゃあ、まあな」


照れたようにしながらも嬉しそうに笑うブルーに、俺も薄く笑みを返した。
そうすると彼女は、じゃあブルーちゃんがあーんしてあげるわよ、なんてはにかんだ。
今度は少し、ふざけた言い方なのだからちょっと心配だが。


「はい、あーん?」


「……………、」


小さく口を言われるがままに開くと、ブルーはいたずらっ子のように目を輝かせてぱくりと俺のオムライスを食べた。
俺への愛を告げた文章は欠けてしまったが、彼女の想いは依然として変わらないようだった。













こんな寸止めくらいしか思い付かない私の頭が残念だ。
オムライスが好きです。
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