TOY

□内緒話
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(ゴークリ)



「あのね、あのね、クリスタルせんせい」


「あら、どうしたの?」


小さい子は、特にポケモン塾に通う小さい子たちは内緒の話が大好きだ。
この子も例に漏れず、掃除中の私の手を引き、私の耳を自分の口元に引き寄せる。
そうして手でメガホンを作って語りかけるのだ。


「クリスタルせんせいはわたしたちのこと、すき?」


内容はたいてい、大事なことではない。
わざわざ内緒でする必要なんて全くない、他愛ないけれど可愛らしいものばかり。
大きな瞳で心配そうに私を見上げる彼女に、私はしゃがみこんで視線を合わせてから頭を撫でてあげる。


「大好きよ。私はみんなのこと大好き。もちろん、あなたもね」


えへへと照れたように笑うその子はご満悦のようで、お気に入りのガーディの人形を片手に部屋に戻っていってしまった。
ほほえましくて後ろ姿をしっかり見送る。
が、先ほどから刺さる視線にいい加減耐えられなくなって彼の方に向き直った。


「……なに、そんなに見られるとやりにくいんだけど」


そんなにもじっと見られると眉間にシワが寄ってしまう。
どんな些細な失敗でもバレてしまうと思うと体が強張っていつもはしないようなミスもしてしまいそう。
私の言葉に「別に俺の勝手だろ」とぶっきらぼうに返すのは言わずもがなゴールドだ。
姿は見えないが草むらから返ってきたのでやはり今日はそこにいるのだろう。
もう小さい子ではないけれど小さい子と同じように内緒に弱い彼は、こうやっていつも、暇なのか何なのか私がポケモン塾のお手伝いに来る度に私を見つめてくる。
これじゃあ何かの研究のようで、観察されているみたいだ。
はあ、息をつくと葉の繁る生け垣の中から顔を出してゴールドは真面目な顔つきで言う。


「疲れてんのか?」


「そりゃあ疲れるわよ……」


ゴールドが色んなところから私を見てくるんだから。
後半は言えなくて言葉を飲み込む。
彼は納得のいかないような顔で、だけれど一応はどこか分かったように罰が悪そうにくちびるを尖らせた。


「世話ねえな、俺が手伝ってやるよ」


「え!いいよ、そんな!っていうかゴールド自体が小さい子みたいなものだし、かえって邪魔……」


そんなことを言い出すのははじめてだ。
しかし、あんなにも可愛いはずのトゲピーを孵したとたんにああさせた彼だ。
お世話、というか面倒を見る役が勤まるのか不安で思ったままに言葉にすると、さすがにひどいことを言ってしまったと気づく。
尻すぼみ気味に消えていく声。
顔をあげると、ゴールドはやはり傷ついたような顔をして、しかしきちんと笑みを浮かべる。


「……ひでえ言い様だな」


彼が平然とそう言うから、もしかしたら私の言葉も彼にはそう堪えるようなものなんかじゃなかったのかもしれないと思った。
そんなこと決してないだろうけれど。
がさがさと草むらから出てきたゴールドは私の手からひとまず箒をひったくって、勝手に私の集めた小枝や枯れ葉を辺りに散乱させてしまう。
きっと、いや、絶対的に手伝ってくれているつもりなのだろうけれどこれはあんまりだ。
ひやあ、なんて変な声が上がる。


「も、もういいから!私がやるから!」


「でも、こうでもしなきゃお前、休まねえだろ」


「っ!」


図星だった。
今度は地面を注視して、ゴールドはちゃんと掃除をする。
できるんだと、当たり前のことになぜだかとても驚いた。


「そりゃあ作業効率が悪いのは認めるけどよ、俺だって何もできねえわけじゃねえから。
毎回見てたんだぜ、これから半日くらいは先生役、やってやろうじゃねえか」


「今日のために……見てた、の?」


なんて巧妙な。
ぐうの音も出ず二の句も告げられず、私はただぽかんと立ち尽くす。
返されなかったのが不安にでもなったのだろうか、ゴールドは箒をで地面を掃きながら私の顔色をうかがっている。
ぷっ、と思わず吹き出して、笑ってしまった。
だっておかしいんだもん。
それじゃあ今日はお言葉に甘えようかしら、初めてかもしれない彼の半ば強引な優しさに、とりあえず流されてみようか。
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