TOY

□内緒話
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寝かしつけようとしていたら眠ってしまった、なんてことは今までなかったのだけれど。
ゴールドがやってくれていると思うとやはりどこかで緊張の意図がぷつんと途切れたようで、いつのまにか私は眠っていた。
穏やかな風が頬を撫でていく。
暖かな夕焼け空の橙がまぶしくて、耐えきれずにまぶたを開けるとそこには誰もいなかった。


「あれ…………。み、みんなは!?」


小さい子たちもいるのにと思うと、サアッと血の気が引いた。
どうしよう、やっぱり、私がちゃんとしなきゃいけなかったのに。
くちびるをギュッと噛み締めると血の味がした。
どうやら切ってしまったようだが、そんなことはどうでもいい。
慌てて立ち上がって部屋を出ると、しかし恐れていたようなことはなく可愛らしいピチューのアップリケのついたエプロンを着たゴールドが重たそうな荷物を運んでいた。


「お、クリス。目ぇ覚めたか」


「うん。なんかごめんね、結局本当にゴールドに全部任せて寝ちゃって」


「気にすんなっつーの」


軽い物言いに嬉しくなる。
うん、と返すと彼はおう、と言った。
何の意味も成してはいないけれどこんなやりとりがとても大切なものに思える。
しばらく無言で並んで歩いた。
聞けばゴールドはジョバンニ先生に頼まれた倉庫の荷物を運んでくれているんだとか。
手伝おうかと言っても彼は頑なに私の話を聞いてくれなかった。


「あれ?」


ようやく部屋について、ゴールドが机の上に荷物を置くと同時にひらひらと小さな紙が舞う。
何だろうと拾うと、そこにはクレヨンで「ごーるどせんせい、またあそんでね」なんて可愛らしい字で書かれていた。
ちゃんと代わりに先生をしてくれたみたいでホッとする反面、何だか寂しいような。
当然なのだけどね、そりゃそうよね。
ゴールドだって、もう子どもじゃないのだから。
私が世話を焼かなくとも彼は他人の世話すら焼けるのだ。


「……ま、クリスのようには上手くいかなかったこともあったけどな。あいつら自分勝手なんだよなあ」


「小さい子なんだもの、そんなものよ」


「俺の話も少しは聞けっての」


むくれて言うゴールドはそれこそ小さい子みたい。
笑うけれど、私の助けが必要としてくれるといいなと思って口をつぐむ。
私も素直になれたらいいのに。
思うと同時に、今日ばかりは先生を代わってもらったのだからそう気張らなくともいいのかもしれないと感じた。
言いたいなら言ってしまえばいいのだ。
小さい子みたいに。


「ねえ、ゴールド」


ちょいちょいと手招いて、私はあの子たちの真似をした。
両手をメガホンのように丸めて、外部と遮断して。
自分の口元を、彼の耳に近付ける。


「ありがとう」


言うのは他愛のないこと。
わざわざこんな風に言わなくたって構わないような、そんな。
やってから恥ずかしくなってうつむき気味に笑うと、彼ははにかんだ。


「珍しいな、クリスがこんなことするなんて」


「いいじゃない。ゴールドこそこんなことするなんて珍しいんだから」


ツンとしたよそよそしい言い方はとてつもなくわざとらしい。
二人して笑いあう、そんな時間がとても幸福なものだと感じた。
やっぱり恥ずかしくもあるんだけどね。















クリス先生はみんなの人気者!という妄想の産物。
ゴールドはチビッ子にさえ嫉妬していたりして、クリスが寝ている間に大人気なく牽制していたりすればいいと思う。
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