TOY

□ひざまくら
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(ゴークリ)


※モブのチビッ子が出張ります




視線を感じる、今日は本棚から。
ということはあそこにいるのだろうか……何だか段々と忍者みたいになってきた気がする。
そんなことを思って、はあと息をつくと膝に頭を乗せたまま女の子は不思議そうに首を動かした。
傾げているのだろう、触れた髪がくすぐったい。


「クリスタルせんせい、どうしたの?」


「ううん?何でもないよ」


小さな手を伸ばして私のエプロンを引っ張る姿はとても可愛らしい。
笑顔でそう答えると彼女も笑ってくれた。
そうしてそのまま私の膝に頭を預けながらおしゃべりをする。


「まだ眠れそうにない?」


「うん……あ、そうだクリスタルせんせい!おもしろいおはなしして?」


「ええ、困ったなあ……」


お昼寝の時間はまだたっぷりあるけれど無限じゃない。
いつもならすぐに眠ってくれるのになあと思うとついつい、やろうと思っていた他の業務に思いを馳せてしまう。
彼女の要求は無邪気さゆえになかなかにむつかしいものだ。
期待に瞳をキラキラされてしまって気圧される。
そういうのはたぶん、あそこに隠れてる不良の男の子の方が得意だと思うのだけれど。


「そうね……じゃあ、ちょっとだけ前の話」


「むかしむかしじゃないの?」


「ええ。ちょっとだけ前の話よ」


彼女はおかしそうにクスクスと笑った。
小さな口だけで声に出さずにおもしろそう、と私に告げる。
彼女が目をつむったのを見届けてから私は続けた。


「あるところにラプラスがいました。お父さんとお母さんと、子供の三匹の家族でした。
ラプラスたちはトレーナーと幸せに暮らしていました。けれどある日、不幸な事故が起こって」


私の話の行き先に気付いたようで、隠れたままの彼が小さく息を飲む音が聞こえた。
彼女にも聞こえたんじゃないかと私は背筋が凍る思いだったのだけれどどうやら聞こえなかったようで。
袖をひっぱって続きを催促されるので慌ててつぐんだ口を開く。


「お父さんとお母さんのラプラスは死んでしまいました。子供のラプラスはトレーナーと二人ぼっちになりました」


「……ラプラス、かわいそう」


「そうね」


悲しそうな顔で言われて、改めてラプラスのことを考えると確かにそうだ、これは悲劇だと認識し直される。
きっかけはこんな悲劇だったのだと思い返される。


「トレーナーは自分のせいでラプラスたちを引き離してしまったと思って、あの時間に戻ってやり直したいと思いました」


彼女は真剣に聞いている。
戻ってやり直すなんて、でも、無理だよ。
不服そうに言う彼女は一体どんなことをやり直したいと思っているのだろうか。
むくれる彼女に「セレビィは知ってる?」と尋ねるととたんに彼女はパッと表情を明るくさせた。


「しってる!ときわたりをするんだよ!」


「そうね。トレーナーはセレビィを捕まえようと思ったの」


セレビィはやさしいもん、ラプラスもまたしあわせにくらせるね。
笑いながら言われた。
きっと、順当にいけばそうなったであろうイフの話。
そうなれば、よかったのに。


「トレーナーはどうしてもラプラスを元に戻したかったから、優しい心をいつの間にか少しずつ、忘れてしまったの。
無くしてしまったわけではないけど、忘れてしまったの」


だから彼は「仮面の子供たち」を組織した。
だから彼はホウオウさえルギアさえ、支配しようとした。
ジョウト中を敵に回した。


「セレビィを無理矢理捕まえようと、特別なボールを作った。でもセレビィはなかなか捕まらなかったの。そこでトレーナーは作戦を練った」


「セレビィ、にげて!」


不安そうに揺れる瞳。
そうね、私たちもあの時、必死にそう思ったわ。
いろいろ考えて、考えて考えて考えて。
答えのでない戦いだった。


「そんなトレーナーを止めようと男の子が立ち塞がりました。
彼は決して真面目とはいえないんだけど、それでも真剣にセレビィのことを考えて、セレビィを守ろうと思っていました」


黙ったまま続きを待つ彼女はヒーローみたい、そうこぼした。
ヒーローかあ、確かに、そうかもしれない。
ジョウトの危機を人知れず救ったヒーロー。
きっと彼の名前と彼の偉業を知る者は、世界中でもかなり少ない。
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