TOY

□指切り
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(ダイ嬢)



約束は破ってはならないものだということが当然のこととして知られているけれど、口約束というものはどうやったって信用ならない。
しょせん人は信頼できず、書面で正式なやり取りでもしない限りは守れっこないことばかりなのである。
きっと彼も、そうなのだ。
そんなことを思ったのは久々に文学小説を読んだあとのことだった。
登場人物を知り合いと重ねながら読んでしまうのは私の悪い癖で、ついついそんなこともないのに彼を、ダイヤモンドをそんな風に思ってしまった。


「……そんなに彼と、似ているわけでもなかったから、切り離して考えればいいだけ、なんですけどね」


ならばどこが似ていたかと言われると、あまり口には出さないけれど相手のことを考える、そんな所が上げられる。
結局彼は、善人であるがゆえに、他人を思いやったがために陥れられてしまったのだが。
彼は優しいから、守れない口約束をたくさん交わしていた。
だからこそ思ってしまったのだ。


「私も、守れない約束を誰かとしてしまったのでしょうか……」


あまり約束なんてしたことはない。
だから、そんなことはないと思うのだけれど。
ぼんやりと手に視線を落とすと、いつも付けているダイヤモンドとパールの指輪に目がいった。
特に意味もないけれど光に透かしてみる。
きらきらと輝く様はとても綺麗で、素直に美しいなと思った。


「いえ、違いますね」


自分の愚かな間違いに気付いて、ゆるく首を振った。
誰がいるというわけでもなく、誰に話しているわけでもないのだからこんなことを一人でぶつぶつ言うのはおかしなことかもしれなかったけれど、自分のために、自分の中で考えを整頓させるために声に出しておきたかった。


「彼だって口約束を、決して最初から破るつもりでしたわけではなかったではないですか。口約束は、守ろうと努力するものなのかもしれません」


書面に書き起こしてしまえば、その約束は絶対だ。
拘束力を持つ。
そりゃあ口約束が拘束力を持たないとは言わないが。
できないかもしれないと思いながらも、守りたいこと。
書くほどは自信をもって守ることができると言えないものではないのだろうか。


「……そうなると、私も少しだけ、口約束に興味がわきます」


守れなくとも仕方ないかもしれないもの。
だけれど期待してしまうもの。
私は約束をあまりしたことはない。
大切な人とも、そうでない人とも。
大切な人とはしてみたいけれど、でも、私だって忙しくて。


「この時間なら大丈夫ですね。パールは無理でしょうから、ダイヤモンドに言ってみましょう」


彼は今ごろ、きっと部屋でノートを書いているはず。
パールはクロツグさんのところに行くと言っていたような気がするから、なんて、これさほとんど言い訳なのだけれど。
ごめんなさい、パール。
心の中で謝りながらポケッチを操作した。
少しの操作ですぐに相手をコールしだす。


『もしもし?こんばんは、お嬢様』


「こんばんは。お久し振りです、ダイヤモンド。元気にしていますか?」


『うん〜!るーもべーもぎーも、みんな元気だよ』


彼の声はいつも通りに明るくて優しかった。
久々に聞いたせいで懐かしさが募る。
無理だと分かってはいるものの、また彼らと一緒に旅ができないものだろうかとついつい思ってしまうのも仕方のないことだろう。
なにかあったの?なんてのんびりと聞かれたら、私は話さないわけにはいかない。
少しダイヤモンド本人にも失礼かもしれないとは思いつつも、言葉を選びながら約束について私が思ったことを話した。


『そっかあ、無理かも知れなくても守りたい約束って、なんだかカッコいいなあ〜』


「そうですね」


彼らしい考え方に思わず笑うと、彼も楽しそうに言う。
じゃあお嬢様、オイラに何か口約束してみない?なんて。
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