TOY

□指切り
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「口約束、ですか……!?」


彼がそう言い出したことに、驚いた。
私が言わせたようなもので、少しばかり申し訳ない気持ちもある。
戸惑っているとダイヤモンドはからからと楽しそうに笑った。


『うん。むつかしく考えなくていいよ、だって守れなくてもいいんだもん。
オイラがお嬢様がこんなこと言ってたなって、ちょこっと懐かしむくらいで他には何にもないから』


「それは、嫌です」


え、とそれだけ声が聞こえた。
どうして?純粋に不思議そうな声色に、私は何だか寂しくなる。
私だけが想っているのだろうか。
彼からも想われたいだなんて、私はひどい欲張りの暴君に成り下がってしまっているのだろうか。


「破ることを前提とした約束なんてしたくありません。特にダイヤモンドとは絶対に。だって」


声が少し震えたことには気付かれてしまっただろうか。
相手の変化にすぐに気づく彼ならば、きっと分かってしまったことだろう。
嬉しいような、悲しいような、恥ずかしいような。
気持ちはごちゃごちゃになってしまっている。


「あなたにだけは失望されたく、ないんです」


『失望だなんて。オイラ、お嬢様をそんな風に思うことは絶対に無いよ』


お嬢様は真面目で、とても物事に真摯に向き合うから。
ダイヤモンドは本当にそう思ってくれているのだろう、言葉は力強かった。
そのことが何よりも嬉しくて代えがたい。
その気持ちだけで十分だ。


「……ありがとうございます」


『ううん、話してくれてこちらこそどうもありがとう。お嬢様が自分のことそうやって話してくれるの、とても嬉しかったよ〜』


そうだろうか、私は脈絡のえない、さぞかし意味不明なことを話していただろうと思うのに。
彼はやはり優しいのだ。


「また話したくなったら、掛けてもいいですか?」


恥ずかしいのだけれど弱い部分をさらけ出せるような方法を、私は知らないから。
少しでも話して、自分のことを知ってもらいたい。
彼はもう、私のことをちゃんとたくさん知ってくれているけれど。
ダイヤモンドがポケッチ越しに笑ったのが分かった。


『もちろん。約束だよ』


「はい」


ここにきて口約束をすることになるとは少しばかり不思議な気持ちだ。
でも素直にうなずきながら言うと、彼は満足そうだった。
沈黙が流れる、どちらとも何を言うわけでもない。


『お嬢様、』


「はい」


『口約束じゃ、やっぱり不安?』


「…………はい」


うまい嘘を言うのは苦手だ。
特に、よく知った相手には。
素直に言うとダイヤモンドはくすくす笑う。
何だか笑われてばかりだなとしゅんとするも、彼の意外な言葉に耳を疑った。


『じゃあポケッチに小指を絡めて?オイラも同じようにするから』


「は、はい?」


言われるがままにするものの、一体どういうつもりなのだろう。
全く意図がわからない。
首をかしげると彼は小さな声で言う。


『指切り。離れているから、疑似指切りになっちゃうけど。これで、口約束は守らなくちゃいけないものになった、よね〜?』


笑ってしまった。
ここは笑うところではないけれど、だって彼はあまりにもいつもと変わらないし、優しいし、私だけが馬鹿みたいに。
何だか笑っているのに涙が出そう。
指切りの有名なメロディに合わせてダイヤモンドが歌う。
最後まで歌いきって、約束だよと彼は付け足した。


「はい。約束です」


口約束も書面上の約束も、何ら変わりなんてないんだ。
ひとつ確かなのは、彼はどんな登場人物よりも優しくて、私に優しくて。
きっと誰より素敵な人なんだという、分かりきったこと、ただひとつだけ!
















なんかもう、何にも思い付かなかった。
すみませんお粗末様です……。
たぶんお嬢様はちょっとネガティブになっちゃったんじゃないでしょうか。
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