TOY

□痕跡
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彼はしばらく黙っていた。
私に考えるゆとりを、猶予をくれている風でもあった。
もっとも、そんなものは何の役にも私は立たせられなかったのだけれど。


「一緒に高校に行かないか」


「……え?」


だって私、自殺で受理されて。
シンタローも知っているでしょう、私のお葬式まで、あの蛇はやったんだよ。
私はこの世界に、そんざいしないはずのものなんだよ?


「行きたいけど、でも」


上手く言葉にまとめられない。
だって私は語彙力の足らない馬鹿で、どうしようもない馬鹿で。
それでもシンタローにそう言われて揺らがないはずがない。
嬉しくないはずがない。
それがどうにも、しようもないのに彼ならできそうと思えるから不思議だ。
泣きそうになる。


「俺がどうにかする。いや、俺たちが、か」


うつむいてしまった顔を、上げた。
俺たち?
覚えも記憶も、どうにかなりそうな要素もない。
視界には彼しか映らなかったけれど、きちんと彼は細く説明を入れてくれた。


「お前の作ったメカクシ団は、今じゃ無敵の集団なんだからな。仲間を頼れよ。な?」


「なかま……」


すごくヒーローっぽい。
味方を信じるとか、見方に頼るとか。
二年前の私がやらなかったこと。
彼が私にとってはヒーローに見える由縁。


「一緒に学校に行こう、アヤノ」


手を差し出された。
大きな手は、私のものとは比べ物にならない。
やっぱり男の子だなあと思った。
少し不安だけれど、そっと自分の手を重ねて彼に委ねる。
視線が絡んだ。
見上げるとシンタローはちょっと私を安心させようとしてだろう、はにかむ。
優しいけれど、でも慣れていないのが一目瞭然なへたっぴな笑みに笑いそうになってしまった。


「うん」


彼はぐい、と私を引っ張りあげて自分の足で立たせた。
彼との距離が近くなる。


「もっとちゃんと、俺に話してくれ。確かに俺は頼りないけど、それでも俺は、お前を守るから」


きっぱり言い切る赤はやっぱりヒーローそのものだ。
嬉しくなって彼の胸に飛び込むと、彼がひどくうろたえたのが分かった。
おかしいの、そこは平然としてなきゃダメだよ?


「やっぱりシンタローは赤が誰より似合うね」


笑いながら褒めると、シンタローは困ったように眉毛を下げて、話聞いてたのかよ……?なんてこぼす。
聞いていたに決まってるよ。
でもこんなちぐはぐな、互いに会話してるのになりたってないような会話、前からずっと大好きだから。
このままでもいいよね。
最終的には彼も笑った。













甘いのかなこれ……?
お題を生かしきれてない感がひしひししてきますね!
もっとアヤノの痕跡がなくなっちゃった辛さを掘り下げたかった!(※自重しました)
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