TOY

□奪いたい
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(グリブル)



「うわっ!」


自分はただ、強がってばかりだったのだと気付けたのはいつだろう。
こんな風に自分の影にさえ驚いて思わず声をあげるようになるなんて、きっと昔の私は思いもしなかった。
だって私は自分を、シルバーを守らなくちゃいけなくて、強く、強くならなくてはいけなかったから。


「どうした?」


情けないことに結構大きな声を出してしまったからグリーンにも聞こえたようだ。
慌てて、何でもないと言うと彼は黙ったまま私の隣に並んだ。
もともと無口な人だから、こんなこともよくあることなのでもう慣れた。
でも、そうか、とかそれくらいは返してくれたっていいような気もするけどね。
最初は聞こえていないかと思って軽い口論になったこともあったかしら。
もういい思い出だ。
歩幅を合わせてくれていることに気付きながらも甘んじて月の下を歩く。
何にもないけど全部あるから、たまにはこうやって歩くのも乙かしら、なんて少し笑った。
明日はジムも休みだと言うのでグリーンの仕事終わりまで待ってみたけれど、思いの外いい結果に繋がったんじゃないかと思う。


「、?」


彼が不意にこちらを見た。
ちら、と視線を向けたかと思うとじっと見詰めてくる。
何か言ってくれればまだ間が持つのに、やっぱり彼は何も言わないからぶわわ、と頬に血が昇るのを感じる。
ホホホ、なんて笑っていられたのはもういつの話かしら。
実際はこんななんて、そりゃあ、誰からも愛情なんて向けられてこなかったわけだから困ってしまうのよ。
シルバーは別だけどね。
目を合わせるのはまだ私にはハードルが高くって、なに?とつっつけどんな可愛くないトゲトゲした言葉が喉から出かかった。
グリーンのことだもの、きっとちゃんとした意図があってしているのだろうから飲み込む。
でも私の心情だって少しくらいは、察してもらいたいものだ。


「っ!」


彼が動いた。
ゆっくりと視線が下がって、どこを見ているのかと思ったら私の指先が見詰められていた。
そうしたら彼の、私なんかよりよっぽど大きな手が、触れて。
軽く包まれただけ。
だけなのだけれど、私の心臓は馬鹿みたいに動いた。
このまま勝手に死ぬつもりなんじゃないかしら。
彼特有の固いペンだこが私の指をなぞる。
どうしよう、手汗がヤバいこともバレちゃっているだろうか。


「えっと、グリーン?どうしたの?」


余裕なんて微塵も感じられない。
内心は汗だくだって丸分かりな声だけど、彼はやはりすぐには返さない。
ただ歩みを進めながらまっすぐ前を向いて、しばらくしてからポツリと呟くように言う。


「怖いんだろう?」


先程とは違い一気に、カッと頬に血が昇る。
冒頭の私の情けない悲鳴のことを指しているようで、もうそんなこと気にしなくたっていいのに。
これだから彼はずるい。
ずるいんだ。
怖くなんてないはずだけど、でも怖い気もして。
馬鹿みたいだけど自分の気持ちも分からない。
グリーンの手の温かさが、そんな気持ちを溶かして消してくれているように思えた。


「意外だな。ブルーも暗闇は怖いのか」


彼が私の名前を呼んだ。
どれくらいぶりだろう。
普段は絶対に呼んでくれないのもわざとではないから、こうやって不意に呼ばれるとドキドキしてしまって仕方ない。
女々しすぎるかしら。
自嘲気味にちょっと笑って返す。


「意外だなんてものじゃないわ。私は普通に暗いところが嫌いよ。あまりいい思い出もないしね」


あまりどころかひとつもないかもしれない。
あるとすれば、シルバーが慰めてくれたあの日のこと。
小さい頃からあの男に捕らわれていたから彼の人格形成に何もなかったはずなくて、どんな子に育つのだろうと不安に思っていたけれどシルバーはきちんと、思慮分別のある優しい子になってくれた。
それを実感して、とても嬉しかった。
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