TOY
□奪いたい
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私が少しうつむいたからだろうか、理由は分からないけれど彼は私の言葉に返事を返さなかった。
帰路をゆったりとしたペースで歩き続ける。
「俺も、暗闇は怖い」
唐突な言葉に思わず彼の顔を見た。
平然と前方に目を向ける彼は凛としていて、さすがだなと思った。
しかし、彼だって怖いのか。
暗闇というものは得体が知れない、だから怖いのだろうか。
それとも。
私もちゃんと顔を上げた。
しっかり前を見据える。
真っ暗だけれど彼と手を繋いでいるからか、目的地がはっきりしているからか、不思議とあまり不安感はなかった。
「情けないよな。お前の感じてる恐怖感をぬぐい去ることもできない。共感なんてして」
自分を馬鹿にするような笑い方に心が痛む。
そんなことはないのに、共感してくれて私は嬉しく思ったのに。
ここにグリーンがいるから、いてくれるから怖いとあまり、感じることもないのに。
彼は手を離そうとした。
それがなんだか名残惜しくて、包まれた時にはいっぱいいっぱいだったけれど、もうなければならないものに思えて。
反射的に彼の袖を引っ張った。
「私はグリーンがそばにいてくれるだけで、それだけで安心できる。だから、そう思うのなら、どこにも行かないで」
息を飲んだ彼を見るのは、何だかとてつもなく気恥ずかしかった。
自分から気張らずとも、あなたがいれば、あなたとなら大丈夫な気がするの。
躊躇したものの彼が離した宙に浮いた手に、指を絡めると彼は驚いたように私を見た。
私の恐怖も緊張も、ぜんぶ奪ってしまってよ。
ねえ。
彼に笑いかけると彼も笑った。
「今日はずいぶんらしくないな」
そうかしら。
そうかもしれないわね、でも。
これも私よ。
らしくなくても、キャラじゃなくても。
「もう。グリーンのせいなんだからね」
今宵の月は、ずいぶんと明るかった。
なんといいますか、こう、夜道を歩く雰囲気を書きたいと思ったらこうなってしまった。
うだうだと考え事をしてる描写を書くのがやっぱり好きです。