TOY

□うたた寝
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(遥貴)



僕の夢は、友達をたくさん作ることだった。
僕の病気は生まれつきのものだけれど、それでも僕は学校に通っていいと言われたものだったから。
知っていたんだ、現実はそこまで甘くはないって。
だけど信じたかった。
ずっとずっと、夢を見ていたかった。

「友達百人、できるかな」そんな有名なワンフレーズ。
その通りに友達がたくさんできたらいいなあ。
そうしたらひとりぽっちで寂しい、僕みたいな子はいなくなって、楽しい気持ちになるはずだから。
そんな風に考えていた。

小学校に入って最初に僕が体調を崩したのは、入学して数日しか経っていなかったころだった。
特別教室の僕は同い年の子と話す機会が少なくて、楽しみにしていたのに。
あっという間に季節は過ぎて、校庭を走り回る彼らを僕は教室から見ることしかできない。
走ったらまた、僕は体を壊してしまうかもしれないから。

悔しかった。
自分はどうしてこうなんだろうって。
悲しかった。
僕は友達、作れないのかなって。
みんなと楽しく、遊びたかっただけなのに。
僕の友達はいつだって本だけだった。

貴音と出会ったのは高校に入ってから。
僕は貴音に会えて、本当に本当に嬉しかったんだ。
初めて作ることのできる同い年の友達だったから。
貴音は最初、僕のことが嫌いみたいで声をかけても無視されたりしてしまっていたけど、それは貴音も恥ずかしかったからなんだって知った。
貴音も僕と同じだったんだ。
友達がほしくて、だけど体に爆弾を抱えていて、臆病になってしまって。

久しぶりに体が言うことをきかなくなった。
動けなくなったのは教室だったみたいで、貴音が先生に連絡してくれたんだって。
きっと貴音のことだから、もっと早くに気づいていればだとか、そんな風に考えてくれていたのかな。
お見舞いに来てくれた貴音は僕に謝りっぱなしだったから。
貴音は優しいなと思った。
そんな風に心配されたのも初めてで、こんなときに思うことじゃないと思うけど友達ってやっぱりいいなって、僕は思ったんだ。

君の「夢」を叶えてあげよう。
気がついたら僕の腕にはビックリするくらいの点滴が刺さっていて、それを見下ろしながら赤い目をした先生が僕に言った。
僕の夢。
それって何だっけ?
首を捻るといつもなら笑いそうなものなのに、先生はにこりともしないで言った。
君は友達が欲しいんだろう、と。
僕はうなずいた。
貴音がいるだろって言うかもしれないけど、確かに貴音は友達だけど、僕はもっとたくさんの友達がほしかった。
いろんな人と、会って話がしてみたかった。先生は続ける。
その「夢」を叶えてあげよう。
不適に笑う先生は何だか悪役のようで、僕は曖昧な不安を持ったけれど先生を信じて、うなずいて目を閉じた。

僕がひとりぽっちに戻ってしまったのは、他の誰でもない僕自身のせいだ。
先生は促しただけで、貴音はちゃんと、友達だったのに。
ぐるりと囲む点滴からはぽたぽたと定期的に液体が落ちる。
この液だけで存命し続けている僕は、はたしてまだ人間と言えるのだろうかとこの頃思う。
時計もないこの部屋は暇で仕方なくて、いっそのこと死んだ方がなんて、そんなネガティブなことばかりを考えてしまう。
死にたくはないはずなのに。
丈夫になって、友達作って、遊びたいのに。

目を冷ましたのはベッドの上ではなくて、以前のように理科準備室の机でもなかった。
大きな木の下、僕は車椅子に座っている。


「あれ遥、起きたの?」


「貴音……?」


まだ意識がはっきりしなくてごしごしと目元をこすると、貴音はあんまりこすっちゃダメ、とお母さんみたいに僕をたしなめた。
寝過ぎたようですっかり記憶が乱れている。
今はいつで、僕は一体どういう状態なんだろう。
幸いなのかどうなのか、貴音は特に僕に何を言うわけでもなかった。
さわさわと風に揺れて木の葉の擦れるのを見ながら、僕は回想する。
ああ、夏はもう、終わったのだっけ。


「貴音、僕、どのくらい寝てた?」


尋ねながら振り返ると彼女は気を見上げて、少し考え込むそぶりを見せて言う。
そんなに長くは寝てないよ、10分くらい。
長くはない10分。
でもその時間で僕は色々思い返した。
大事なことも、そうでないことも。


「貴音、あのね」


前を向いて話すと貴音は車椅子のストッパーを下げて、進まないように固定してから前に回り込んできてくれた。
目の前でたち膝をついて、僕の顔を除き込む。
かいがいしく動いてくれるものだから驚いた。
貴音は僕の知らないところでずっと、こんな風に僕と接してくれていたのかとようやっと認識する。
数年前はこういう状態も「普通」だと思っていたものだから。
僕は病弱なのが嫌なくせにそれを享受していたのか。


「僕と友達になってくれて、ありがとう」


今さら過ぎる言葉だけど、今だからこそ貴音に言いたかった。
夢を最初に叶えてくれた人だから。
貴音は驚いたように数回まばたきをして、それからあきれたようにいつものように僕に笑った。


「あんたね、確かに遥はコノハじゃないけど、あんただって立派にメカクシ団の団員なんだから、もう友達は私だけじゃないんだよ?」


「!」


僕もみんなの、仲間。
コノハじゃないけれど僕がコノハだということに違いはないから。
その説明はとても嬉しかったんだ。
自分にだけ向けられて恥ずかしかった貴音がはぐらかしたかっただけかもしれないけど。
仲間。
友達。
僕にとっては何よりもほしかったもの。


「ありがとう、貴音」


「もう、だから私だけじゃないんだってば」


ぷいとそっぽ向く貴音はそれでもぶっきらぼうに「私こそ、ありがとう」と呟く。
何事かと首をかしげると貴音はああもう!と苛立ったように立ち上がって僕に言い放った。


「私も遥にお礼、たくさんしたいの!悪い!?」


照れたように必死なのが、やっぱり貴音らしいなと思った。














もう「うたた寝」関係なくなってしまった。
遥貴やっぱむつかしい。

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