文章

□夏日
2ページ/3ページ




長い黒髪は、わずかに吹く風に揺れて暑さなど微塵も感じさせない。

遠くを見つめているようで、片手で日差しを遮る姿は深窓の令嬢しかり。
(思いっきり太陽の下にいるけど気にしない)

汗ばんだ様子もない、日焼けして無いだろうが病的なわけではない、
健康的な白い肌がちょっと眩しい。


ヒカリがいた。

むやみやたらと漢字を連発しなくとも、
普通に端的に最初からそう終わらせればよかった。

とたんに分かりやすく、ジュンの背筋がピンと伸びる。

今なら定規を背中に入れても問題なさそうだ、
日常生活でも猫背というわけではないけれども、際立ってそう見える。


「よっ、ヒカリ!こんな所でどうしたんだ?」

「あ、コウキくんにジュンくん!
 博士に頼まれて大量発生のポケモンを調査してたんだけど、えへへ、サボってるのバレちゃった。
 やっぱり悪いことはしたらいけないねー」


サボっていたのが恥ずかしいのか照れたようにはにかむヒカリ。

見れば、湖にギャラドスがいる。

あれがヒカリのギャラドスだろうか?


「いやいや、この暑さだもんなー、サボるのも無理ないって」

「ありがとね、ジュンくん。
 そうだ、遅れすぎてごめんね、コウキくん、ジム制覇おめでとう!」

「あー、ありがと」


微妙なジュンのフォローに俺がケチをつける間もなく、ヒカリに突然そんなことを言われて戸惑う。

ジム制覇ってそんな大層なことか?と思ってから、そういえばジュンも制覇してないかと思い直す。

いや、主に渚のスター(笑)のせいだけど。


「これ、よかったら使って!」

「ありがと。別に、そんな物用意してくれなくてよかったのに」

「コウキくんにはいつもお世話になってるし、いいの!
 この間も、珍しいきのみの栽培のアドバイスしてくれてありがとう!」

「あ、その後どう?」

「順調に育ってるよ!」


くいくいっ、と背後からジュンに服を引っ張られる。

何だよ今ヒカリと話してる所なのに、と思いつつ無視したら耳元で低くささやかれる。


「コウキ……おま、きのみの栽培なんかしてたのか……!」

「え、普通するだろ」

「しねえよ!生えてるの取るだけだよ!」

「犯人は貴様か」


俺の1時間に1回の水やりの苦労を返せ。

いつも2、3ヶ所は誰かに取られるんだよな……
ジョウト地方には持ち運べるプランナータイプの栽培セットがあるらしいが、取り寄せるしかないか?


「ジュンくんも一緒にやろうよ!すっごく楽しいんだよ!」

「俺もやる!ヒカリ、色々教えてくれないか?」

「…………」


ヒカリとの接点作りに必死かよ。

下心が見え見えなんだが、どうしてヒカリはコレに気づかないんだ興味ないのか?


「コウキくんとジュンくんは、どうしてここに来たの?」

「水タイプのポケモンが捕まえたくて。なんかオススメのポケモンいない?」

「うーん……オススメのポケモンかあ……」


考え込まれてしまった。

いや、そこまで難しく考えてもらわなくてもいいんだけど。


「サメハダーとかは?可愛くない?」

「かわ………?」


ちょっとセンスが独特の方向性に進んでるようだった。

まあ、見方によっては可愛い……かも、しれない。


「コウキくん、よかったらなんだけど、タマゴから孵ったばっかりのヒンバスでよかったら交換、しない?」

「いいの?」


ズルいぞ、コウキ!ジュンの目がそう語っていたけど、あんなん無視だ、無視。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ