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□さらば過ぎ行く日々たちよ
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美術は好きだけど、ボクは時間内に作品を仕上げるのがめっぽう苦手だ。

しかも残念なことに実力も伴っていない。

得意科目イコール無し、だ。

進学できるだろうか、という素朴な疑問が脳裏をかすめる
―――ああ、今は作品作りに集中しなきゃダメなんだった。

無心に夢中で、キレイに混ざったパステルカラーを細かく塗っていく。

時々、下書きした線からはみ出してしまうけれど……ご愛嬌、ってことで誤魔化しておく。

先生にはご愛嬌、なんて無意味だけど。

かの有名な巨匠達だってはみ出している時もあるのだから。

強引に塗り進め、完成した作品はおよそA判定をもらえそうな代物ではなかったけれど、
何とか贔屓目に見れば、B判定くらいにひっかからないだろうか。

無理だろうな、と諦めながらも帰り支度を始める。

じっとりとした空気感は、もしかすると自分が発しているのかもしれない。

曇り空に悪態ついた。



 ***



「…………っう、ぁ」

空模様がご機嫌ナナメだったのは知ってたけど、大粒の雫を1つ、また1つと落としていく様子に
へなへな、とその場にへたりこんでしまう。

天気予報、雨が降るのは18時以後になるでしょう、って言ってなかったっけ。

ひょっとしてボクの単なる聞き間違い?

事態は何一つ進展しないと分かっていながらも、過去の記憶をたどってしまう。

梅雨入りが宣言されたのはいつだったっけ。

以前クラスメイトに貸した折り畳み傘は、いまだに手元に戻ってきていない。


「先生に言ったら、傘、貸してもらえないかなあ……」

職員室に意識を飛ばす。

きっともう、担任の先生は帰ってしまったことだろう。

いるなら主任レベルの先生や、部活動を終えた先生、それに教頭先生とか?

いかつい顔を思い出すと、思わず首をすくめてしまう。

ダメだ、ボクにそんな勇気はない……。


「小降りになるまで待って、それから走って帰ろう」

うん、そうしよう、きっとそうするのが一番いいに違いない。

体が丈夫な方ではないからあまり雨に濡れたくないけれど、帰ったらきちんと拭けばいいだけの話だ。


「それまで、ええと…………」

何かしなきゃいけないことがあった気がする。

ああそうだ、明日は英単語の小テストだった。


「小テストの勉強でもしよう……」

かばんから単語帳を取り出して、繰っていく。

雨はまだ、ぼたぼた降っていて、止む気配も無かった。
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