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□さらば過ぎ行く日々たちよ
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「うわー、降ってる降ってるー」

ブルーの陰謀によりはめられて、担任教師からいわれのない指導をされたのが1時間。

その誤解を、教師の言い分を聞きながら、丸く収まるように解いていくのに1時間。

計2時間(少なからずロスタイムもあったが)もかけると、予報通りに雨が降っていた。

レッドは決して悪ふざけをする系男子、ではないのだが
決して真面目系男子、とは言い切れない所もあった。

まあ要はどこか抜けているのだ。

決定打に欠けるというか。


「傘、あったよなあ、多分」

無かったらダッシュで帰ろう。

そんなことを思いながらも、ちゃっかりと想い人が居残りをしている(していた?)ことを
耳にいれていたレッドは美術室の前をわざわざ通る。

理由もなしに、遠回りでもお構いなしに。


「あれ。やっぱもういないか……」

だけれど、熱心な彼女は色を塗るのには時間をかけるタイプだったと思う。

一番手前の窓際に立て掛けられたパレットは、まだ水が滴っている。

恐らくは、彼女が先ほどまでここにいた証明。


「っ、まだいるかも!!」

情けないながらに必死になって階段をかけ降りて、何でもない風に下級生の下駄箱の前を通った。


「―――――――っ」

薄暗闇の中、蛍光灯の光を浴び、ぼやあっと浮かび上がるその姿。

金髪のポニーテイル、手にするは単語帳。

真面目に、真剣そうに食い入るように見つめる様子から、俺の存在を認知していないように見える。

彼女はいつも一人で帰るし、誰かを待っているわけではないのだろう。

ならばなぜ、こんな所で足止めを食らったかのように時間を有効活用している?

それは彼女がかばん以外、手にしていないことが何よりも雄弁に語っている。

教師からプリント受けとるの待ってた、とかいう可能性もあるけれど、
俺は2時間もあそこにいたが、教師陣にそのような動きは見られなかった。

よって、やはり前者の仮定が正しい……と、思いたい!

ここまでが3秒。

教師にいいわけする時もこのくらい頭が回ってくれれば助かるものだ、まったく。

あたかも今気づいた、風を装いながら自然なように、あ、と声をもらすと彼女はパッと顔をあげた。


「あっ、イエロー!傘でも忘れたのか?こんな所で立ち尽くして」

「うわああ、レッドさん!?いや、あの、はい、えっと……!」

突然声を掛けたからか、しどろもどろに言う。

こほん、と仕切り直しに可愛らしく咳払いをして、彼女は照れたようにはにかんだ。


「ご名答です。傘、忘れちゃいました」

…………これはフラグなんだろうか。
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