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□さらば過ぎ行く日々たちよ
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くどいかもしれないが、繰り返す。
これはフラグなんだろうか。
ごくり。
気づかぬうちに唾を飲み下していた。
「お、俺、」
落ち着け、いつも通りに。
そんなにこんなにドモって、引かれたらどうする気だ。
勘づかれたらどうすり気だ。
そつなく難なく、平常通り。
へらへらと笑いながら―――きちんと、言おう。
さらっと本音を。
「なあ、だったらさ、俺は傘持ってるから、良かったら一緒に帰らないか?」
「え、いや、その……悪いですよ、ボク、遠慮します」
必死になって赤い顔をぶんぶん、音が聞こえそうなくらい振りながら後退するイエロー。
やっぱり相合い傘は荷が重いよなぁ……。
「俺は別に構わないんだけど、そうだよな……やっぱイエローは嫌、だよな……」
「そ!?そんなこと!」
我ながら姑息だと思う。
自虐的なことを言えば、優しいイエローが否定してくれるだろうことは容易に分かる。
だからこその、「押してダメなら引いてみろ」!
ちょっと意味は違う気もするけれど気にしない。
せっかくの好機、逃したくはないのだ。
「わ…………かり、ました」
か細い声が返してきた。
「お言葉に甘えます。ボクを、傘にいれてもらえますか?」
「当たり前だっての!」
じゃあ俺、傘と靴持ってくるから、待ってろ!
声が弾んでしまったけれど、彼女は気づいた、だろうか?
***
しとしと、品よく小降りの滴がゆっくりと傘に降りかかる。
雨音に支配された中、気恥ずかしさと騙したという申し訳無さが相まって何も口にできない。
イエローもイエローで思うことがあるようで、モゾモゾと居心地悪そうにしていた。
「あ、雨」
状況を打開しようと試みてくれたのは、意外や意外、イエローの方だ。
「大分小降りになりましたね」
「そうなのか?」
「はい。ボクが帰ろうとした時には、もっと大粒の雨が絶え間無く地を叩いている感じでした」
「そうだったのか」
会話が、自然と途切れた。
何か話題は無いものか……ガードレールが左腹に食い込みそうになって、思わず右に少し、少しだけ寄った。
「っ!」
「ひ、ぅ!」
俺とイエローの肩が、わずかにぶつかった。