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□追いかけ追われ
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彼女を見て戦慄した。


「なっ…………!?」

雨の中、スカートを限界まで引き上げ、スパッツ丸出しで、
ブレザーの上着をさながらパーカーであるかのように腰に巻き、そして何故か。

鮮やかな水色のスニーカーを履き、中庭を駆けていた。


「な…………こ、これは何事?」

「ルビーくん!ちょうどいい所に!」

「クリスタル先輩!?あの、これは何がどうなってるんでしょうか!?」

切迫したように僕の名を呼ぶ先輩に、ホッとして、助かったと思いつつ
……あれ、先輩はどうして切迫したように僕の名を呼ぶんだ?


「そのことなんだけど…………ごめんなさい、私のせいだわ」

そんな風に前置いて、先輩は目を潤ませながら話し出す。


「ゴールドがサファイアちゃんを、からかったの」

「ゴールド先輩が?」

まあ予想通りといえば予想通りなのだけれども。

先ほどは視界に入っていなかったのか、見ればサファイアはなるほど、ゴールド先輩を追いかけている。

先輩は余裕の笑みを浮かべながら、同じくスニーカーで走っている。

対して、追うサファイアは狂気じみた必死さだ。

何故余裕そうに。

何故当然のようにスニーカー。

いや、サファイアがそんなにも必死そうなのかも分からないけれど。


「今日は体育委員会があったでしょう?」

「はい。……僕は別件で行けなかったんですけど」

「それよ。部長会だったのよね」

「はい」

それよ、と言われても。

残念ながら僕には全く分からないのだけれど……。

部長会に何の関係が?


「ルビーくんが、その、男らしくない……とか」

言いにくそうに、申し訳なさそうに、瞳を潤ませ言われるとこちらこそ申し訳なくなる。

自覚してます、言えないけれど心の中で呟く。


「それにサファイアがキレたんですね……」

「まあ、そんなところ、かしら……」

うぎゃー!

外から奇声を聞いた。

何かしら叫んでいるようだが、残念ながら聞き取れない。


「ごめんなさい!やっぱり、私のせいだわ!」

「いや、クリスタル先輩に非がある部分が全く無かったと思うんですが」

クリスタル先輩は総務だから、体育委員会にいたわけでもないだろうし。

どんだけ自分を責めるんだろうか、この先輩は……。


「とりあえず、このまま走らせておくわけにはいきませんよね」

「そう、ね。先生方に見つかれば、2人とも怒られてしまいそうだわ」

先輩は目元をサッと袖でぬぐった。
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