文章

□心配性な少女達
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 !)メカクシ団とモモ、シンタロー、エネが知り合う前の話。
  自己解釈な(創作に近い)捏造話。

















いつも不機嫌そうな、無愛想なお兄ちゃんだけど、私にはいつも、いじわるもするけど、優しくて。

――――だから、お兄ちゃんが楽しそうに歩く様子を見て足が止まってしまった。

真夏日なのにも関わらず、冬服のセーラー服は見ているだけで辛い。

お兄ちゃんの横を、儚な気な笑顔を浮かべながらも楽しそうに歩く、赤色のマフラーをした女の人。

あの人は、誰?

お兄ちゃんは赤色のジャージを着ていて、面倒くさそうな表情をしてはいるものの、
隠しきれない楽しそうな雰囲気がにじみ出てくるかのようだ。

気心なんて知り合った仲のようにむつまじく。

それもまあ、見ていてこっちも幸せになりそうなほどに、笑いあう。





そんな炎天下の中の記憶は、今日もまだ鮮明に脳に焼き付いていた。









あの日から、今日で何日経っただろう。

あの暑い、夏の日から何日が。









「お兄ちゃん?…………学校、行ってくるね」

「………………。」

返事は返ってこない。

何百回目かの無駄かもしれない行為に視界が潤んでいくのを根性で止めて、無言の扉に背を向けた。

あの日私の見た女の人―――アヤノさん。

楯山文乃さんは、8月15日にお兄ちゃんの通う高校の屋上から飛び降りて、亡くなった。

原因や理由は、私には分からない。

お兄ちゃんがアヤノさんに抱いていた感情も。

亡くなった後もしばらくは、お兄ちゃんは学校に通っていた。

だけれど、ある日。

お兄ちゃんは知らない間に高校をやめていて、知らない間に部屋に引きこもりだしていた。

あれから何年も経ったけれど、まともにお兄ちゃんと話せたためしがない。

私ももうすぐ高校受験、かつて天才と呼ばれた兄の恩恵にあやかりたいし、
何より前のように話をしてほしかった。

だから私は、毎日のように不毛な声掛けを続けている。

振り向いて、私に注目して、ほしかった。


「……って、あれ?」

一体私が何をしたというのだ、学校に行ったのにも関わらず、学校は休みのようで静まり返っている。


「何でだろう……まあ、何でもいいけど……」

はあ、とため息が漏れ出る。

私はうっかり忘れていたけれど、今日は運動会のせいでつぶれた土曜の補い日、
振り替え休日だったのだ。

来た道を再びたどる作業は気が滅入る他なかったけれど、黙々と歩いた。






家に帰ると、お兄ちゃんの部屋から謎の叫び声。

「お兄ちゃんっ!?大丈夫!?」

何事かと思い、扉を無理に開けようと力一杯開け放つ。

――――そこに広がる風景は、PCの画面に向かって怒鳴る兄の姿で。

記憶の中の美化された兄とは、天と地ほどに違ったのだ。

しかしまあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんであって。

美化されたにしろされていないにしろ、久々に顔をあわせたことが嬉しくないはずもなく。


「…………。」

兄はそう思ってはくれていないのであろう、神経質そうに顔を歪めた。

開かれた扉、中をうかがうと真っ昼間なのにも関わらず、遮光カーテンがひかれた室内は薄暗くて。

PCだけがただ1つ、異彩を放つかのように光っていた。


「お兄ちゃん、何かあったの?」

「何でもない。扉、閉めてくれ」

すぐさま返された言葉。音楽か何かを聞いていたのか、兄はゴツいヘッドフォンをしていた。


「……分かった。ごめんね」

意味も理由もなく謝って、部屋を出る。

扉を閉ざしてしまってから、自分はこんなにも簡単に扉を開けたられたこと、
普通に兄と話せたこと、そして―――。

そして、都合よく解釈して、部屋の中に居座り続けることができたのではないか、と思う。

今更ながらに、遅いながらに思う。


「…………あぁ、もう、イヤだなあ」

こんなはずじゃなかったのに。

変わりすぎた現在を、過去の自分が対等に嘆いた。
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