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□実力不足は身にしみて
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「ごめんね、ミズゴロウ」
君は泣きながら僕に謝ってくれて、泣かないで、って僕が君の涙を何度ぬぐっても、君は涙を流し続けたね。
負けてばかりなのは自分のせいだと、責任に思ってしまった君。
僕のせいなのに、君は何も悪くないのに。
周りの子からもバカにされて、僕が強くなっていさえすれば、君はバカにされずにすんだのにね。
シンオウ地方に住む強いトレーナーに、偶然メールが行き着いて。
君はその人に僕を託すことにしたと、泣きながら教えてくれたのは昨夜のことで。
「わたしのせいで、ミズゴロウが負けてばっかりなんだよね。
ごめんね、ごめんね、ミズゴロウ」
僕を抱き締めて言ってくれた。
僕が勝てるようになるように、幸せになれるように。
僕は君が笑ってくれることが何よりも嬉しいのに。
言葉も通じない僕と君の考えは入れ違ったまま、迎えた当日。
君は僕を手放したくないんだよね?
だったら僕を、負け続けてもずっとそばにいさせてよ!
叫びも虚しく届かずに、僕はボールから君の泣きそうな笑顔を見守る。
もう会えない君。
最後に見た君の顔は、僕の幸せを切に願っていて、僕は胸が苦しくて仕方なかったんだ。
『今までありがとう。大好きだよ』
通じるはずもない言葉は、彼女に届いただろうか。
僕は確認するすべもなく、転送マシンで遥か北にあるシンオウ地方へと送られた。
***
「あ、届いた。ありがとね、ルトちゃん!」
「うんっ。フィオさん、ミズゴロウをよろしくね」
泣きそうになりながらも健気に笑う少女に、自分がしっかりしなくては、と
責任を感じて胸を張って答える。
「もちろん!俺がミズゴロウを強くしてみせるよ」
「ありがとう。本当にありがとうございます。
ミズゴロウ、じゃあね」
通信が途絶えたのをきっかけに、俺は転送マシンで送られてきたモンスターボール……
ミズゴロウに近づいた。
警戒しているようで睨みをきかせているミズゴロウ。
聞いていた限りでは温厚な性格なはずだったのだが、やはり長年のパートナーの元を離れた直後だ。
周りを警戒しても仕方ないだろう。
「これからよろしく。俺は、ノモセシティ出身のフィオ」
名乗ってボール越しに触れると、ピクッと体をよじらせた。
「俺が絶対に強くしてみせるから」
だからルトちゃんに強くなった姿を見てもらえるように頑張れよ。
再会は約束できないけれど、俺と頑張ってポケモンリーグに挑戦できるようになればテレビに映る。
そこで見てもらえるように。
ミズゴロウは意図を察してくれたようで、うなずいてくれる。
もう会えないのに、ルトちゃんのことが大切でしかたなかったんだな。
ちょっぴり寂しい気もしながら、手持ちにミズゴロウを加えて221番道路を後にした。
懐き度:0
(彼の心はまだ、彼女の元に色濃く残っていて)
6.15.