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宿屋を出て、運良く特急列車にタダで乗せていただけた。
(修行の旅に出るんです、と言ったらオーナーのおじさんは大変だなあと共感してくれたのだ!)

途中で下車させていただいて、今は海沿いを飛んでいる。


「うわあ、キレイ!あの町にしようかな、時計塔が素敵だし……」

『珍しいね、クリスが前もって考えてないだなんて』

「あら失礼ね、ママとのやりとり覚えてないの?
 私が仕事探しを前にしようとしたら、そんなことしたら修行にならないピョン!
 調べたりなんかしたら旅に出る必要性がなくなるピョン!って言ってたじゃない」

『そんなこと言ってたっけ?……言いそうだけど、さ』


風が通りすぎる、無言になった私たちに日の光が降り注ぐかのようで雲の合間から覗く日光がいじらしい。

決めた、あの町にしよう。

大変なこともたくさん、これからあるだろうけど、何だかあそこならやっていけそうな気がする。


「ネイぴょん、とりあえず時計塔から全体を見回してみよう?
 それで雰囲気が良かったら、ここにするわ」

『クリスの旅だもん、クリスの好きにどーぞ』


何だか投げやりなネイぴょんだけど、キラキラ輝く海を見ていたら前途多難なんて言葉も忘れてしまいそう。

そうするわ、返してゆっくり、向かっていった。



 ***



漁港があるんだ、とまず驚いた。

心が弾む、船の上で目を丸くする漁師さんを横目に大通りらしき所へ。


「やっぱり私の住んでた所とは違うわね……都会だわ……!」


高い住宅郡に囲まれながらも日差しの降り注ぐ通りには、たくさんの人。

遥か上を余裕で通りすぎて、目指すは町の中心にそびえる赤茶の建物。

煉瓦造りのモダンな時計塔には丁度9の数字の所にドアがあり、おじいさんが顔を覗かせている。

おじいさんは私を見て、驚いたように二度見したあとに手を振ってきた。


「魔女さんかい!?」

「こんにちは、おじいさん!
 私、魔女のクリスです。この町、素敵ですね……!
 これから一年間、よろしくお願いします」


この町で修行するのか、とサングラスが印象的なダンディなおじいさんは同じく印象的な白いヒゲを撫でながら呟いた。


「わしはカツラと言うんじゃが、魔女に会ったのは久しぶりじゃ。
 ありがとうな、この町で修行するのも簡単ではないと思うが、頑張ってくれい!」

「はい!」


ラッキー、この町には今、魔女がいないんだ!

決めた、私ここで頑張る。

ニッと笑い、Vサインを送ってくれたカツラさん。

こちらこそありがとうございます、と返して手を振った。

早速いい人に会っちゃった!

また会いに来よう、とひそかに心に決めた。



 
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