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散策がてら、箒に乗ったまま大通りに戻る。

さっきよりも低い高度で飛んでいるからか、色んな人が見ているのが分かってちょっと恥ずかしい。

だけど赤面するのも何だか嫌で、とりつくろった苦笑いを浮かべてしまった。


『何で変な顔してんの、クリス』

「変な顔じゃないわよ、だってこんな時ってどんな顔していいか分からないじゃない……!」


初めて見るたくさんのものにニヤついてしまうからこんな顔しかできないの!

あまりつっこまないでほしかった。

あ、可愛い靴が売ってる!

それに私、二階のあるバスなんて初めて見たわ!

なんて浮かれていたら、あら危ない目の前にトラックが!


『クリス、避けてえぇぇ!!』

「分かってるわよ、そんなこと!!」


ネイぴょんの悲痛な叫びとトラックのクラクション。

あやうくひかれて死ぬところだった、もう飛ぶのはよそう。

適当な信号機の前に降り立つと、やはり色んな所から視線が集まってきていて!

恥ずかしい。

苦し紛れに、あの、と信号機待ちの人たちに切り出した。

ネイぴょんの心配そうなすくい上げるように見つめる姿に、心が痛む。


「わ、私っ、魔女のクリスっていいます!
 素敵で、気に入ったので、その、この町に住まわせていただこうと思いますので、
 えっと、あの、よ、よろしくお願いします!!」


自分は何を口走っているのよバカ!

ポカーン、としている他の人たちにも合わせる顔がない、穴があったら入りたい!

たまらず頭を下げたけれど、これじゃあますます困らせるだけかも、信号機が青に変わる。

一斉に動く人の波。


「気に入ってくれて嬉しいわ、頑張ってね」


キクコさんによく似たご婦人に会釈された、気を使われてしまったわ……!

申し訳なくていたたまれない、とりあえず私もホテルでも探そうかしら。

修行というか、職探しは明日からにしよう。

歩き出そうとすると、ちょっと君、と紺色の制服だろう服をキッチリ身につけた警察官。


「え、私……?」


刹那、時間が止まったかのように錯覚した。

警察官に話しかけられるだなんて、私、お父さんとお母さんに何て言ったら…………!!


「わた、私、何もしてないですよ!?」

「何を言っているんだ君は。
 それより、危ないじゃないか!

 バスの前に飛び出すだなんて、第一箒に乗って道路を通るだなんて非常識だ!
 道路交通法を知っているのかい!?」


かあああ、と頬に血が集まったのを感じた。

無知扱い、それに私は非常識な滑稽なよそ者。

家に帰りたい、修行だなんてそんなの考えたくもないわ!

そんなことを考えていた、時だった。


「待てよドロボー!こんちくしょー、ゴールド様がそんなにも怖いのか!?
 ぎったんぎったんにしてくれるぜ!」 




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